夜の碇の下で 鳩仁彦詩集

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 2018年6月、書肆山田から刊行された鳩仁彦(1953~)の第3詩集。装幀は亜令。刊行時の住所は世田谷区。

 

 この小さい本に集めた詩や文章のもとは、およそ三○年前、一九八〇年代終り頃から九〇年代なかばに書いたものです。一九八〇年から都内の私立高校に勤め始め、先輩先生方と酒席などを共にするうちに文学談義で盛り上がってはさらに酒杯を重ねるような日々が続きました。そんな日々の成果をまとめて詩集『部屋・X・喪失』(一九八九、書肆山田)ができあがりました。その勢いに乗って「にわか勉強」にとりかかり、東西の詩作品を勉強しました。その中で気に入った何人かの詩人たちの特徴的な語彙やイディオムを取り入れて自分の詩にするという、引用で試作する詩作みたいなことも始めました。その頃に書いたものは、第二詩集となる『ボート乗り場へ』(一九九九、書肆山田)に盛り込みましたが、収まらなかった詩や文章の多くはそのまま放置することになってしまいました。
 このほど長年勤めた職場を離れました。これを機会に若い世代の方からの求めにもかかわらず希望に沿うことができなかった『部屋・X・喪失』を再刊してみたいと思い、久しぶりに書肆に相談のための連絡をしました。すると電話の向こう側の書肆(鈴木氏ならびに大泉氏)はあたかも三〇年前と何ひとつ変わらない様子で、詩集を世に送り出し続けていることがわかりました。何かにつけ変化すればそれが進歩のように思うむきも多い中、変わらずに続けること、そのような本物の「意志」があることが伝わってきたのです。もしかしたら詩の世界には「日付」はないのではないか? そう思うとにわかに、旧作を再刊するのではなく、放置してきた詩をまとめて形にしてみようという意欲がわいてきたのです。そして古い作品を拾い集めまとめていくうちに、この詩集が過去の友情の記録であるとか、また何か思い出みたいなものを集めるという以上の何か、二〇一八年の「今」をあらわす詩集としても成立するだろう、という甘い見通しのようなものが出てきました。
 この『夜の碇の下で』は、私の三番目の詩集となります。作品が書かれた時点としては詩集『部屋・X・喪失』と『ボート乗り場へ』の間におかれるものです。あの頃楽しく遊んでくれた仲間がいたからこそこれらの詩集ができたわけで、おおいに感謝しなければなりません。またそのような遊びを許す懐の広い職場だからこそ、自分のような変人も長く勤務することができたのでしょう。
(「あとがき」より)

 
目次

  • 曙光
  • 否墓の風景
  • 疑墓の非在
  • 森の詩
  • F博士
  • 雨夜
  • ある女
  • 航跡
  • 遅れた詩語のゆくえについて
  • 飲酒迎暁
  • 行け!場末へ、行け!
  • IKEBUKURO夕景
  • どこまでも
  • 何ものでもない
  • アルカディアにも死はあるか
  • CantoCXVへの伴奏
  • SHOAH1985_
  • HIROSHIMA/手元にあるもの

あとがき


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