1968年2月、現代詩工房から刊行された榊弘子(1928~)の第1詩集。著者は青森市生まれ。
きしゃがきた
一つ 二つ かぞえた
目がまわって
わたしは
うしろへ ころびそう
おとうと
まえへ のめくった昭和九年度の青森市立橋本尋常小学校の学校文集に載った当時一年生の私の詩。
その頃から詩らしいものを書き続けてきたわけではないが、海と田圃に狭まれた細長い青森市の浦町野脇に生れ育った私は、幼時東北線の線路端に屡々遊びに行った記憶がある。長い長い貨車の列を一つ二つと数え、目がまわって体が斜めになってもやめなかった。谷内六郎氏は(上総の町は貨車の列)とたとえたが、あの幼い日以来、私の前にもいつも過っていく黒い貨車の列が見える。
昔と変らないむき出しの丸太。石炭。いつ見ても悠々と、しかしよく見ると悲しげな目付の馬、牛たち、彼らの角やたてがみには、桔梗やよめなの花を飾ってやりたい。復員兵のカーキ色が消えて鮮やかなグリーンの国鉄コンテナが登場したのは何時からだったか、貧しい青森の農漁村の柾葺屋根に石をのせた家々や、百万遍の石塔。緑の山並までが車輪をつけて通り過ぎる。
あれらを見送ってばかりいないで私も何かを積込まなくてはと思う。
誰にむかって何処へ......
積んだが最後、轟々と去って二度と戻ってはこない貨車なのに、ともかく私も積込もう。非常に家庭を大切にしてくれる夫と、十才と八才の現代っ子二人。ほんとうの娘以上に私を可愛がってくれる姑に囲まれ、まるで温室の中にいて、幸すぎるせいだろうか。
扨と編んでみると、肉親への詩は殆んどなく、只々自己への拘泥ばかり。
神に対しては御名を冒濱する罪を許し給え。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ 折れる。
- 折れる
- 火の唄
- 洗濯の歌
- 願望
- 女の果実
- 書かれる
- 手
- おりがみ
- 流れる
- 編む
Ⅱ 雪
- 月の光
- 蝉
- 花火
- 堕天使
- こぎん・雪
- 雪
- 濡れていたい
Ⅲ 祈る
- 妬み
- 飢餓感
- 內之浦奇譚
- 善意
- 秋夜
- 祈る
あとがき