2020年2月、榛名まほろば出版から刊行された真下章の遺稿詩集。装幀は浅見恵子。
真下章氏の最後の詩集「ゑひもせす」は、清書したA4原稿用紙をコンビニでコピーし、市販の台紙に黒い綴じ紐で綴じたものだ。とてもとても、H氏賞受賞詩人の詩集として、ふさわしい造りではないと思ったのは私だけではあるまい。その真意がどうであったかは、故人となった今では確かめようがない。
しかし、私にはある苦い思いがあった。このコピー詩集発行から一年ほど遡るある日、真下氏本人から詩集刊行の相談を受けたのだった。一も二もなく承諾して、さて、どのように進めようと原稿の入った封筒を押し戴いたのだった。ところが、あれこれ考える愉しい時間はあまりに短かった。片道10分という距離は車でも決意を要する距離だ。まだ、原稿の中身も分量も吟味する間もない一週間も経たない頃、真下氏は再び車を運転してやってきた。事情が変わって仕切り直しだ、という風に言ったと思う。とにかく、原稿を返して欲しい、ということだった。別段、険悪な雰囲気ではなく、いつになく、養豚を始めた頃のこと、家庭の事情も顧みずアメリカに研修旅行に出かけたことなど、珍しく自慢げにお喋りしていったものだ。しかし、真下章詩集が榛名まほろば出版から出ることはなくなったのだ。それだけが、釈然としない事実として残った。
いきさつは、以上で十分ではないか。澎湃として詩集刊行の声が起こる中、私は手を挙げねばと思った。ご遺族、真下匠氏の同意を得て勇躍、出版の運びとなった。もちろん、企画出版である。藤井浩氏の詳細な年譜を付け、浅見忠子さんの斬新なブックデザインを施した。最後に蛇足ながらの一文を差し込ませていただき、墓前に供したい。合掌。
(「この詩集のこと/富沢智」より)
目次
- ある料理
- 生誕
- 風景
- 新たに
- 霧
- そうだよな
- ゑひもせす
- 睾丸炎
- 改良品種について
- 模擬大会
- 朝から雪
- 改築
- 冬の夢
- 赤い川のこと
- 密殺のこと
- 酒・あるいは焼酎
- 猫の場合
- 出荷について
- 声について
- 殺し屋の訳
- クロップスパテーよ
- 現場について
- でなければ
- 泥の舟
- 炎天
- 富士
- タラッペのこと
- 青い鳥について
- 風に
- 月夜野
- 案山子のこと
- 土地改良のこと
- 子持山
- 羅漢
- 冷夏
- 羽の花びら
- お袋のこと
- ヒナ菊のこと
- 藁もちのこと
- 神さまのこと
- 秋海棠
- 泥棒について
- 景語拾摭
- 稲の花
- 夕闇
- バイパス
- 紙の花吹雪
- たらちねの
- 吊り橋
- 人間さまのこと」
真下章年譜 藤井浩
関連リンク
真下章さんに (浅見恵子)
真下章詩集「ゑひもせす」ができました(浅見恵子)
NDLで検索
Rakutenブックスで検索
日本の古本屋で検索
ヤフオクで検索