1978年9月、コスモス社から刊行された野口清子(1930~)の第4詩集。表紙、カットは山野卓。著者は葛飾区堀切生まれ。刊行時の住所は立川市柴崎町。
いつのまに、亡父を想う詩をたくさん書いていた。今年は三年忌になる。小さい詩集をつくろうと、ひとり思い立ち原稿を書きすすめるうち、母と姉の詩も入れることにした。
父は明治二十三年、花菖蒲で知られた堀切の農家のひとり息子として生れ、幼少期から病身だった両親の支えとなって働いた。堀切の土地の百姓は、畑に花をつくり、毎月一日、十五日には、車に花を積んで都心の街に売りに行っていた。父も大きくなると花屋になって、カラカラ鳴る花車を引いて、浅草方面に向った。
その頃のことを、晩年の父がなつかしそうに話してきかせた。「俺が行くと、殿さまがわざわざ出てくるんだ」そして、畑から切りとったまま車に積みこんできた花の大半を買ってくれたということ。
殿さまは、素朴な少年花屋を愛されたのだと思う。この殿さまは有馬伯爵で、政界で活躍した頼寧の父であったようだ。
早くから外に出て、多くの人に接してきた父は、学ぶことも多かったと思う。私が幼い頃から、農業委員として土地の世話役をしていた。私が今、残念に思うことは、明治、大正、昭和と、激動する歴史を生きた父から、その豊かな経験をきておかなかったことだ。
(「あとがき」より)
目次
- 思い出
- 舞う
- 夢でみ見た花
- 柿の木
- 父の祭り
- 花車
- えん日
- 転身
- 元旦
- 母
- 何かが
- めざめに
「花車」によせて 清水深生子
あとがき