1993年10月、編集工房ノアから刊行された川越文子(1948~)の詩集。装幀は栗津謙太郎。著者は岡山県生まれの児童文学者。刊行時の住所は倉敷市。
高1のとき、高1コースという月刊誌に「きょうの春」という詩を載せてもらった。特選ということで番地まで紹介されたので全国の同級生から四十通もの手紙をもらったことは、田舎の女学生にとって際立って大きな事件だったはずなのに、それからのち二十年近くも、私は詩から遠いところにいた。生きていくこと、に、一生懸命だった。
二十年ののち、永瀬清子先生との出会いがあった。「他の詩も読ませてもらいたいわ」先生のお言葉にとびついて、大学ノートに書きとめていた五篇を届けた。
「黄薔薇」の同人になった。創刊35周年黄薔薇一二〇号という記念号が、私の初参加号だ。作品は、「生まれる」。
この詩を福間健二さんが、「詩学」の時評で大きくとりあげてくださって、後日福間さんは、『地上のぬくもり』という詩集を送ってくださった。
時を同じくするころ、長く勉強していた児童文学で、やっとはじめての本を世に出せる機会にめぐまれた。処女出版の嬉しさはどんなに書いても書きつくせるものではない。そんな嬉しい本に解説を書いてくださった岩崎京子先生が、解説の中で「おさげ」を披露してくださっている。拙ない自分の詩たちが、ひそやかに動きだした気配を感じた……。
たくさんのやさしい方たちとの出会いがあって、恵まれていたこれまでだったと思うのに、それでも、「生まれてやる生まれてやる」と繰り返さなければくぐりぬけてこれなかったときがあった。そんなとき、よく空を仰いだ。瀬戸内の明るい空には、地上に住む人間の寂しさ、哀しさ、が、無色透明な風船に詰まって、空いっぱいに浮いている気がする。「負けるな」「私も頑張る」そんな一声一声が、これらの詩たちではないかと思う。
空を、仰ぎながら、いつも努力している自分でいたいと思う。
(「あとがき」より)
目次
- 音楽
- 好きだ!
- 春の駅
- おさげ
- 生まれる
- 日常
- レクイエム
- 丘の上で
- ナックルボール
- 人
- 五月の朝
- 遠足
- 叱らないでほしい
- 母さんは……
- 母親哀歌(エレジー)
- 桜
- 円通寺の桜
- 春の小鳥たち
- 雨
- 河岸
- 深く
- 空
- 奈良にて
- 噛む
- 雪
- 祈り
- 横浜市南区
- その建物
- 私の全てを量でいうならば
詩集『生まれる』について 永瀬清子
あとがき
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