1983年10月、青土社から刊行された川田靖子(1934~)の第4詩集。装幀は入江観。著者は神戸生まれ、刊行時の職業は玉川大学教授、住所は川崎市麻生区。
宇宙の中にポロリと転がされて、私は何よりもまず「目」でありたいと願った。目前の物ごとをありのままに見るだけでなく、あるべき姿をも映し出すことのできる明澄な目でありたい。
過去から現在にいたるまで、私は日常性に満足したことはなかった。たしかに足がかりは身辺の事物の中にあるのだが、いち早くそこを通りぬけて、物質の法則に支配されることのない彼方の世界への道をたどっている。有限の世界に住みながら、人間が無限を目さすのはなぜだろう。時間の腐蝕作用に冒されない堅牢な愛――友情も含めて――ー電撃に始まっても、慈悲となって持続する情のように、人間のものでもあるが、人間を超えてもいるものだけが心を惹きつけてきた。
書かずにいられなくて私は書くのだが、もっとも大きな原動力は「痛み」であるらしい。痛みのことばかり考えるのは、痛みが嫌いではないからではないかと思うとぞっとする。とにかく必死で麻薬をさがすあまり、ときにものを考えることをやめるのが一番の麻薬ではないか……と考えるほどに滑稽な錯乱におちいることがある。
異物を同化した結果、貝が真珠をつくり上げるように作品が現前するのだったらどんなによいだろう。困ったことに、詩においては模索や発見の過程そのものも重要なドラマを形造っているので結果だけを姿よくさし出すことはできない。
詩集を出すにあたって多くの人のお世話になった。四十年来変らぬ友、入江観氏が今回も装幀を引きうけてくれた。刊行して下さることになった青土社の清水康雄氏、編集部の高橋順子さんにはことのほか御厄介をかけた。傍白のようにして投げて下さるヒントの一つ一つが有難い浮標となった。これらの御厚情に対して心からの感謝を捧げる。
(「あとがき」より)
目次
- ソウル・バード
- 水玉模様の風景
- 夕映えから星月夜まで
- ウルトラ・ヴァイオレット
- 水と麻薬
- 天地なりゆき
- わたしとひとと ふたたびわたし
- わたしは風
- 光の季節
- ボンボンをつくるには
- 大熊座と小熊座と
- 水晶玉占い(クリスタル・グージング)