1976年7月、私家版として刊行された弓田弓子(1939~)の第1詩集。刊行時の著者の住所は横浜市磯子区。
「華」と言う女性ばかりの同人雑誌があった。私は「華」の同人であった。
作品としての自覚もなく、詩を書く仲間がいなくなった「華」の中で、壁に身をぶつけるはずみのようにして言葉を落としていた。
鈍い痛みを感じていたが、まるで居眠りしているように書いて来た。眠っていると気づいたとき、やめた方がいい、と自分に言った。そんなことを考えているる時だった。
突然「華」主幹の持田美根子さんが亡くなられた。石になった持田さんに最後に逢い、持田さんの骨を拾った。
「華」は自然消滅した。
あれから一年十ヶ月になる、今でも私はあおむけになる時、持田美根子さんの死を考える。持田さんへの追悼が、この詩集をまとめる動機になった。
私はあらゆる追悼に向って「華」を踏んできたようだ。淫らに取り乱すばかりで言葉を知ろうとはしなかった。
ここで懺悔してもはじまらない、すでに私はここから離れている。
この拙い自己流の詩集らしきものを、長いあいだ私の愚痴を聞いてくださった古い友人達に、又あたたかく私を仲間に加えてくださった新しい友人達に、深謝の意をこめてお贈りしたい。
故人になられた持田美根子さんに、手渡し出来ないのが残念でたまらない。
この詩集の出版に、きびしい序げ年と勇気を与えてくださった、今辻和典氏に深くお礼申し上げます。
(「あとがき」より)
目次
- かたまり
- 見る
- 明日に
- 三〇といくつかめかの誕生日
- きちがい豚
- オランウータン
- 殺した蜘蛛
- 皮膚
- あいつ
- 王様のまるい虫
- 天然果汁
- ずるずる
- 海
- 夜
- 手術
- 雨
- 虫の季節
- 死
- 今は
- 何もない
- 私
- 駅
- その日
- 帽子
- 仕立屋
- 飲む
- 改札口
- 溝から
- 地上
- 会話
- 胃袋
- 鼻
- 骨組
- 画面
- 影絵
- 埋める
- 顔
- 汚物
- 見舞客
- 夏
- 夏に
- 旅
- 父よ
- 兄よ
- 昭和三十六年六月十三日
- 理想の生活
- 母胎
- 追悼への混乱
あとがき