1979年2月、私家版として刊行された桜井節の第4詩集。扉・装幀は木村光佑。刊行時の著者の住所は大阪府豊中市。
第三詩集「渦の誘惑」(昭和四十八年十二月刊)以後書きためたものを編んで、第四詩集「礫人」とした。大半が昨年の作品であり、〈都市化・夢幻現像・寓話・ひとつぶの海・友情・子どもが映える冬〉の六編以外は未発表の作品ばかりである。
日常のやりきれない人間の所業を、私流のしぶとさで内在させ、決して私だけのものではないとの認識が、作品への意欲を駆立てた。
塵埃に塗れた軒下を、伝って墜ちる雫のように、忘れそうになっては私の脳天に落下した。そんな刺激が私の作品となった。
海に向って爪を立てると、波は寄せてきて引く。ただそれだけのこと。侵されたら侵されたなりに私がとるべき行為がある。
腰を据えたことばで、ことば以前のものを表現するのは至難だが、詩はそれを必要とする。私の生息模索の作品がそれなりに何かを育てているのかどうかは、読んでもらった方々との間に、深められる交感があったかどうかに拠るのだろう。
現実を踏まえ、人間経験を深めたいと思う。これからも自己にどれだけ正直になれるかが間題だが。石ころにも微かな温もりがある――。と思う。
「礫人」は絶えだえの私をとりまくいろんな仲間の、寡言の叱咤による結果であると言える。とくに小久保実、眉村卓両氏には折々に厳しい意見や有益な助言を受け、発情させてもらった。ありがたいことだと思う。今回も装丁を心よく引受けていただいた木村光佑氏をはじめ、友人諸兄の厚意に対し厚くお礼を申し上げたい。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
借りもの競争
背広族
ぶなの冬木立
「新釈嘘草子」
うそのはじまり
鷽と嘘
貪婪
嘘の生態
深海魚だ
都市化
くわせもの
鳥への戒め
夢幻現像
この夏もひかりがあって影みたい
あしたも逢う情景
乱流記
寓話
Ⅱ
ひとつぶの海
化石
抱擁の曲折
有情
日常挿話
植樹
子どもが映える冬
めぐり来る春に
哀れ深めるわらべうた
夕暮れはなにか欠けている
通夜の集まり
日曜私人
就寝まえに記した蛇足
ぼく自身への愛惜歌
『礫人』の後に 小久保実
桜井節の道のり 眉村卓
あとがき