2009年3月、花神社から刊行された田中武(1934~)の第4詩集。装幀は直井和夫。刊行時の著者の住所は新潟県新発田市。
チンパンジーやニホンザルの育児では、子供が死んでもなかなか手放さない母親がいる。胸に抱いているのならまだしも、手にぶら下げて振り回しながら移動しているのもいるらしい。しかし誰にもわかることだが、その母子関係の維持にははっきりした限界がある。
詩集をまとめながら、母親が離れて行く瞬間の光景が思われた。詩を手放す私の掌はにおっているだろうか。
ともあれ、もうかれらを看取る必要はなく、ここから解放されて、まだ手つかずで私を待っている言葉の群落があると信じるほかはないようである。
若い頃に初めて関わった詩のグループ「ロシナンテ」で一緒だった小柳玲子さんに、このたびは昔のよしみでずいぶんお世話になった。物事に疎い私は実際的な面でも多くの示唆を受けた。
はるか昔のあの頃に、詩を書かなかったらあり得ない縁(えにし)であろう。(「あとがき」より)
目次
・無人島雑記
- 悪ダラの木
- 踏切
- 見えない湖
- 選挙
- H氏との交遊
- 信号で待つ
- 雑草屋
- 坂道と病院
・襲われる日々
- 砂の中の肉
- マグネットキャッチ
- 通信
- 回転する球
- 建物
- 枯れ野
- 守宮が鳴いた
- 白鳥のいる闇
- 志、低く
- 不細工な太鼓
- 青空警報
- 音を飼う
- 楽器
・優しい宇宙の物語
- 優しい宇宙の物語
- 三月のUFO
- 小さな家族
- 世間は忙しい
- 壁面に沿って
- 赤ん坊
- 四月の兄貴
- 物語の始まり
あとがき