1985年11月、校倉書房から刊行された近田武のヌルトンヌ論集。装画は岩佐なを。
昭和四十八年九月二十日に父近田武が亡くなり十二年過ぎました。今年は十三回忌にあたるので何かするなら実のあることをしたいと考えていました。そんな時「早稲田大学学術年鑑」という本をみました。早稲田の先生方の学問の成果をまとめた本です。発表された論文、翻訳、講演など掲げられているのです。この本の中で、父と親しかった先生方の様々な研究成果をみるにつけ、今父が生きていたら皆様と同じように、何篇かの論文、何冊かの本をかいていただろう……とあきらめきれない気持ちになりました。生きていたら父はきっと本をかくでしょう。そんな父のかく本とはかけはなれたものになってしまうかもしれないけれど、せめて、私たちのできる範囲で何か遺稿集のような本をつくってみたら、よい十三回忌の供養になるだろうと思い出版を決意したのです。
収められた論文は『早稲田商学』『銅鑼』に発表されたものです。レチフ・ド・ラ・ブルトンヌは、父がずっと研究しようと決めていたテーマです。しかし半ばにしてたおれてしまい研究も中途に終わってしまいました。だから、ここに載せた論文は決定稿ではありません。父にしてみればまだまだ訂正加筆したい部分があるのではないかと思われます。また、他の研究者からみれば眉をしかめたくなる箇所もあるのではないかと思われます。でも、加筆する人も訂正する人も弁明する人も今はいません。残された者は父にかわることはできません。ただ父のかいたままの論文が読む人に、特に学生達に何らかのひらめきを与えてくれたら、教壇で「パリの夜」講議中に倒れていった一人の教授の冥福になるのではないかと思うのです。そのひらめきが肯定であっても否定であってもよいのです。
年月が経れば、故人の思い出も遠いものになり、遠くにいった分だけ暖かく懐しいものになっていきます。この春、母が亡くなり父のもとへ逝きました。母も生きていれば、この本の出版をきっと喜んでくれたろうと思います。父の思い出にかえる本書に母の冥福を重ねて祈ります。
(「あとがき/岩佐圭子」より)
目次
- レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ
- Ⅰ『ムシュー・ニコラ』を中心にして
- Ⅱその近代性について
- 『パリの夜』
- Ⅰ「夜の目撃者」について
- Ⅱ「夜の一週間またはパリの七夜」について
- Ⅲ「パリの二十夜」について
- 1第三部の構成について
- 2国王逃亡事件
- 3シャン・ド・マルスの虐殺
- 4八月十日の革命
- 5国王の裁判・処刑
- 6ジロンド派追放(第三革命)
- 7マラーの暗殺
- フランス大革命下の一教養人の記録
- シャルロット・コルデイの話 レチフ・ド・ラ・ブルトン 近田武訳
- 無産階級の作家レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ ス フェリシアン・マルソー 近田武訳
- レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ略年譜 近田武編
近田武年譜
あとがき 岩佐圭子