現身 富松良夫詩集

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 1971年10月、龍舌蘭社から刊行された富松良夫(1903~1954)の選詩集。装画は瑛九。著者は宮崎県都城市姫城町生まれ。

 

 富松良夫さんがなくなられて、この十一月でちょうど十七年になる。折りから、長い間の念願であった富松良夫詩碑の建立が進められ、新築成った近代的な都城市立図書館の庭園に、除幕の日を迎えることになった。霧島の詩人であり、南九州の宮沢賢治とでもいうべき大きな影響を与えた、このユニークな郷土詩人の復活を心から喜び迎えたい気持である。
 時を同じくして、令弟昇氏(宮崎市助役)から、富松良夫詩集刊行の話があった。黒木淳吉とともにお手伝いすることになった。富松良夫さんがなくなられて四年たった時、同じように昇氏が、残っていた詩作品、訳詩、文学、美術、音楽、宗教論、その他随想などをまとめ、詩とエッセイ集「黙示」として出版されたことがあった。三百七十ページにもおよぶこの著作集は、当時高見順氏はじめ多くの詩人、作家に高く評価されたのであった。
 この詩集は昇氏の手元にあった未発表の作品と過去の詩集に未収録の作品から十二編を選び、「黙示」の中の代表的作品を加えたものであるが、その選定が證明、孤高のこの詩人の真髄と、昇氏が詩人の兄へ捧げる深い敬愛の情を果たしていくらかでも汲み得ているかどうか、ひたすらにそれをおそれる。
 Ⅰの十二編は、どの年代の作品であるか、はっきりとはつかめないが、戦前、それも昭和六、七年ごろの作品と推察されるものが四、五編ふくまれている。中で特にふれておきたいのは「現身」である。これは戦後の、晩年に近い作品と思われる。この一編の持つ意味は、従来の富松良夫の作品の中で、きわめて重要なものとなろう。
 Ⅱは第一詩集「寂しき候鳥」と詩とエッセイ集「黙示」の中の「時雨の座」から、Ⅲは第二詩集「微かなる花譜」Ⅳは「黙示」からそれぞれ選んだ。
 詩人富松良夫については、今後本格的な作品論、富松良夫論が展開されるべきであろう。それによってますます、この先輩詩人の真価は不朽のものとなるはずである。前詩集「黙示」同様、都夫人のご好意により瑛九氏の装画で飾られたことを感謝したい。
(「あとがき/黒木清次」より) 

 
目次

  • 現身
  • 無題
  • 春日私情
  • 粉雪
  • 好晴
  • ひとりのひと
  • 坂路
  • 無題
  • ある旅情
  • 白い坂

  • 歩みつつ
  • ある日
  • 自画像
  • 明ける
  • 十月
  • いのり
  • ヴェートオベンを聴く
  • わかれ
  • 寂しき候鳥

  • 能面真情
  • 霧島山
  • 霜雪旅情
  • 苔魚
  • 日暦
  • 澄心図
  • 微かなる花譜
  • 霧島にて(一)
  • 霧島にて(二)
  • 夏日冷韻抄
  • 生活方図」
  • 新雪
  • 月夜
  • 消息

  • 聴く
  • 五月と樹
  • 落日
  • 秋と霧島
  • ある庭にて
  • 春と霧島
  • 羞恥
  • 黙示
  • 聖骸布
  • 死と花房
  • 菊あかり

年譜
あとがき


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