1977年1月、現代文学会出版部から刊行された増田みず子(1948~)の第1詩集。装幀は杉山洋子。刊行時の著者の住所は文京区向ヶ丘。著者が小説家になる以前の作品集。
もしかすると、私は、誰一人として見たことのない空間へ、さまよい出られるつもりでいるのかもしれない。そこがどんな所なのかわかりはしないのだが、私を越える大きな力が私をそそのかす気がする。
それは、人間が本能的に生きる方向に向ってしまうのと同じだ。
現代詩という不可解な世界にとらわれて十年近く、解放される気配もないのに書き続けるもどかしさは、そうでもなければつきあいきれるものではないだろう。また、別の面から言えば、自分の関わろうとする世界の深遠さを証明してくれる嬉しさでもある。詩は、この世界を知ろうとして探りまわった結果出来た、私の皮膚の上のひっかき傷である。客観的には、印刷されてしまったものは感情の残渣であって、芸術には程遠いだろうが私にとっては痛みを超越する、私の実存の、総体にはちがいない。
次の仕事へとびうつるためのスプリング・ボードを持った、というこの上ない喜びをもって、私はこの第一詩集を大切に思う。
本書の上梓はすべて涌田佑先生のおかげによるものである。感謝の気持は言葉を尽しても、到底伝え得ない。今後の軌跡でわかって頂くよりなく、そのためにも良い仕事をしたいと、意を新たにしている。また併せて、これまで量り知れぬ御教示、激励を頂いた、赤川謙、寺田量子、鳥居章諸先生に深甚の謝意をささげるものである。
なお、収載作品は大半が新稿だが、一部「中央文学」「現代文学」および「人間牧場」に発表した詩にあらたに手を加えて収録した。特に〈Ⅲ季節の迷い子〉は「人間牧場」発表詩を中心にしてまとめたものであることを記し止める。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ生まれたての密航者
- 生まれたての密航者
- 少年の風
- モザイクふうの黄昏
- 恋びとの睡眠
- ビルディング
- 微量の死
Ⅱ卵のカラを抱く鳥
- 卵のカラを抱く鳥
- 遊覧船のコメディ
- 実験動物始末記
- 父島の狂気
- 奇妙なバランス
- 動物慰霊祭
Ⅲ季節の迷い子
- 山みち
- 五月の雪・天神平
- 落日・佐渡
- 季節の迷い子
- 音楽
- 残骸との別れ
- 婚約
- 風の通路
- 冬の幻象
Ⅳいちばんふつうの風景
- 固定するフローティング・ポイント
- 十一月十三日
- 魚群哀感
- リズミカルな餓死志向
- 壁に映る夜
- 異物除去方法論序說
- 闇・イリュージョン
- いちばんふつうの風景
Ⅴ硬質のアプサラス
- 硬質のアプサラス
あとがき
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