1996年8月、沖積舎から刊行された水出みどりの第4詩集。写真は秋山実、装幀は和田徹三。刊行時の著者の住所は札幌市南区。
耳は不思議な存在です。人間のもつ器官のなかで、もっとも動物的であり、そして限りなく受動的なもの。耳は眼のように、自分の意志でみずからを閉じることはできません。かすかに血の色を透かせている、かたちを美しいと思います。
耳の魅力に惹かれ、耳の洞にひそむものを探り、そしてさらに眼のなかにも入ってみたいと思いました。一九九二年から約四年間、二つの器官を旅した記録がこの詩集です。
どこまで探り得たのかはわかりません。捉えようとする指の間から逃れていった、言葉にならないものこそが、本当の詩ではなかったかという恐れを抱きながら、この一冊を編んでみました。
私にはじめて詩を書くことの歓びをあたえてくださり、この詩集にもすてきな装釘をいただいた和田徹三先生に深く感謝しながら。
(「あとがき」より)
目次
・耳
- 1 闇のなかに
- 2 柔毛がひかる
- 3 夜明け
- 4 洞のやわらかな窪みは
- 5 洞に
- 6 くらがりに花が咲いている
- 7 洞に
- 8 夜更け
- 9 夜更け 洞ふかく
- 10 月の光をぬすみ蛇が脱皮している
- 11 せせらぎが聴こえる
- 12 洞に夜が満ちる
- 13 洞に吃音の問いがこだまする
- 14 夜明けちかく
- 15 くらがりに醒めている罠
- 16 水の音が聴える かすかに
- 17 夜明け
- 18 洞の昏い窪みは
・眼
- 1 水晶体のくらがりに
- 2 欠けやすい
- 3 眼底に
- 4 瞳のくらがりに火が群れている
- 5 夜の通路は
- 6 流刑地に
- 7 裏通りの
- 8 鏡のなかの真昼
- 9 眠りの吃水線がほの白くなる
- 10 ガラス体の海で
- 11 水の柩が
- 12 しんと明るい水の底に
- 13 放物線が
- 14 さかさまの森が沈んでいる
- 15 眠りの街に
- 16 瞳の闇に
- 17 死者たちの夢のなかが明るくなる
- 18 波が墓碑銘を洗っている
あとがき
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