1993年3月、思潮社から刊行された吉沢巴の第3詩集。
忙しい、忙しい、というのが私の口癖です。早口言葉が得意で、道を歩くときは半分走っています。いつも仕事や、まるで生きることそのものに追いかけられているようです。家でも、物を読んだり書いたりするためだけに机に向かうことなど殆どありません。でも時折、通勤電車に揺られながらとか食器の散らかったままの食卓に向かいながら、あるいは疲れて眠りに落ちる寸前、言葉が私の前をふっと横切ることがあります。その言葉はわざと他人顔でそ知らぬふりをしていたり、茶目っ気たっぷりにベろべろばあ、なんてしていたりもします。私はその言葉の尻尾をしっかり捕まえ、うんとこしょ、と詩にするのです。詩が書けた日は最高に幸せです。
そうやって、やっとのことでこの『式典』を私の第三詩集として手元から飛び立たせることができました。ここに収めた作品の多くは、この数か月の間に書きおろしたものです、早いもので、先の『フィズの降る町』からはすでに三年も経っています。詩集を一冊作る度にその時の書き手はもういなくなります。生まれては消え、生まれては消え、そしてこの『式典』の私は、前の二人の私とは別人です。まったく違った顔をしています。そして間もなくその私も消えかかろうとしています。その間に、産み出した詩たち、言葉たちは力強く歩み始めてくれるでしょうか。読んでくださる人たちの心の片隅で生き続けてくれるでしょうか。そうあってくれればいいと心から願っています。
(「あとがき」
目次
- 式典
- T・理惠
- ガム
- 進化
- 延着
- フィルム
- 急流
- 帰省
- 律動
- 檻
- R飯店
- 試着
- 西瓜割り
- 試験室
- 執務室
- 幌馬車
- 浴室
- 急須
- チーズケーキ
- 車輌
- 雨季
- 歓声
- 密林
あとがき