1956年4月、東京創元社から刊行された小野十三郎(1903~1996)の第9詩集。装幀は辻まこと。
これは、昭和二十八年に、「日本国民詩集」の一冊として出した「火呑む欅」に次ぐ私の第九番目の詩集にあたります。凡そ三年間に書いた四十篇の作品を、「野の夜」と「木々が芽吹くとき」の二部にわかちましたのは、一つ一つの詩は片々たる抒情詩でも、それが集まって成った詩集というものは、今日では当然叙事詩的な性格を持ってしかるべきだという私の日ごろの考えから出たもので、そのことをはっきりさせるために、全体にわたっていささか作品構成をこころみました。したがって配列は、制作順序によったものではありません。この他に、主として新聞のもとめに応じて書いた詩や、少年向の詩がほぼ同数ぐらいあります。これはまたちがったかたちでまとめるときがあるでしょう。今日の日本がおかれている状況をおもうとき、この詩集の作品があまりに無力なのに不満はありますが、とまれこれが私のこの三年間の仕事のエッセンスであり、記録としても残しておくべきだと思いましたので、ここに一冊にまとめました。読者が、この詩集から、なんらかの意味で政治的な匂いをかがれることは、私は少しもかまいまん。ただそのことが、読者の心に、美そのものとして感知されますよう、そういう性質の詩で、私の詩があってくれるようねがうのみです。
(「あとがき」より)
目次
- 野の夜
- 虫の声
- 重油富士
- 野の夜
- むかしばなし
- 虫と人と
- 燈の帯
- ひとでの山
- 穴
- 秋の草々
- 田舎の火事
- 白雪姫
- 空席
- 機械化遊戯機具群の中
- 地平のはてまで
- 深夜の雷鳴
- 葦の地方(七)
- わさび漬
- 信号所の上
- 夜の鳩
- 木は一せいに夏に向ってなびく
- 木々が芽吹くとき
- 不時停車
- 宮城
- ハマスゲのたぶさ
- 葦の地方(六)
- 葦の地方(八)
- 木々が芽吹くとき
- 高いところ
- みりんぼし
- 春の雪
- 「燈台の光を見つつ」
- 告別式
- 出発
- 自働扉にもたれて
- 雀の水浴び
- 寒雀
- 火
- 日の出
- 早春
- 中国の岩塩
- つるバラの根に
あとがき