2011年2月、土曜日術出版販売から刊行された大塚欽一(1943~)の第8詩集。
昨今は生きるのがたいへん難しい時代になっているようです。これは私たちがいままで経験したことのない時代の流れです。ソドムとゴモラは別にしても、かつては自然が人間存在を圧倒するほどに大きな存在を持ち、人間はその自然に癒やされて多くの危機を乗り越えてきたといっても過言ではありません。しかしここにきて、飛躍的に科学技術を発達させた人類はおのれの知性を過信し、自然を従え、あまつさえ支配しようとし、その結果、地球規模の社会問題、温暖化問題、人口問題、原子力問題、その他ありとあらゆるものが噴出して、ために生活レベルは格段に上がりながら、環境は破壊され、心は荒廃し、そして未来に希望をもてない状況を作り出しているように思えてなりません。このままでは環境の激変に耐えられない繊細な生命の多くは死滅してしまうでしょう。それは同時に人類自身の存続をさえ脅かしかねません。その意味でも人類は今までの歴史にはなかった未曾有の断崖に立たされているわけです。今や地球の歴史そのものが大きな転換期に立っているのです。これらを前にして、私としても何かを叫ばずにはいられない心境なのです。もちろん人類はいままでも多くの苦難の体験をし、その度に多くの人たちの叡智でこれを乗り越えてきました。これからも何とか叡智を集めてこの苦難を乗り切ってほしいと祈らずにはおれません。私たち詩を書くものもただのうのうと手を拱いて見ているだけではいけないでしょう。ただ周りを見ても、地球の未来に眼をむけた詩集はあまり多くないようです。そこで拙いながらその祈りを詩集にまとめてみた次第です。それもまた詩人に課せられた使命の一つであると考えます。
(「あとがき」より)
目次
- 母
- 沈黙の朝
- 湾岸戦争が勃発した朝
- パンドーラの函
- 虫喰いだらけの蜜柑
- 足音
- かすみ網
- 河豚
- 石棺
- 耳鳴り
- それはぼく?
- 遠い淵から
- 憂い
- ヴァーチャルの森
- 脳死が死に取ってかわった日
- 還らざる河
- 秘めごと
- 片隅で
- いのちのジャングル
- 球形の卵
- 口吻のない蛾
- この世は叫びで
- 予言
- 春の田圃で
- 母なるガイア
あとがき