1979年9月、立風書房から刊行された高柳重信の句集。装幀は前川直。
目次
- 松島(海防艦)松島を逃げる重たい鸚鵡かな
- 橋立(海防艦)橋立に見ざる聞かざる徒寝して
- 厳島(海防艦)親不知生えつつめぐる厳島
- 鎮遠(二等戦艦)名告り出でたる鎮遠の木を伏し拝む
- 富士(戦艦)朝髪梳くと富士の真秋に顔あげて
- 八島(戦艦)杖下に死せる八島の秋の大兄らよ
- 敷島(戦艦)敷島の神の赤米奥儀かな
- 朝日(戦艦)朝日田毎に能登の輪島のわ大尽
- 初瀬(戦艦)初瀬はや秋来る方に日は落ちて
- 三笠(戦艦)一夜二夜と三笠やさしき魂しづめ
- 八雲(装甲巡洋艦)八雲さし島ひとついま春山なり
- 吾妻(装甲巡洋艦)鶺鴒あそぶ吾妻の秋の朝漕ぎよ
- 浅間(装甲巡洋艦)南無鶴亀の浅間の爆ねも空耳か
- 常磐(装甲巡洋艦)歌留多狂の常磐の刀自も身罷りき
- 出雲(装甲巡洋艦)海も山も出雲かなしや紫なす
- 磐手(装甲巡洋艦)見たな見たなの磐手の鬼を見にゆかむ
- 春日(装甲巡洋艦)夢に来て怨む春日の彼某よ
- 日進(装甲巡洋艦)息の緒よ日進波羅蜜応と哭く
- 壱岐(二等戦艦)生肝を献じて従五位壱岐津彦
- 丹後(戦艦)丹後せつなし頭たたいて舌出す遊び
- 相模(戦艦)弟よ相模は海と著莪の雨
- 周防(戦艦)すでに周防は三人食はれて早馬発つ
- 肥前(戦艦)転びの藤太実は肥前の彦鰐鮫
- 石見(戦艦)滅びつつ石見を行きてまだ石見
- 香取(戦艦)手始めは香取に寄せる侘茶の乱
- 鹿島(戦艦)身の穴をみな見せて歔く鹿島立ち
- 筑波(巡洋戦艦)憑物も落ちる筑波の荒嵐
- 生駒(巡洋戦艦)一に生駒二無し三無し四は拾遺
- 鞍馬(巡洋戦艦)鞍馬の百韻眠気盛りの月の座よ
- 伊吹(巡洋戦艦)如何如何と伊吹は雪の問ひ殺し
- 足柄(一等巡洋艦)霰打つ相対死も足柄よ
- 羽黒(一等巡洋艦)羽黒に流行る青い時雨の稗史ひとつ
- 摩耶(一等巡洋艦)又の名の摩耶の餓狼も翌なき秋
- 鳥海(一等巡洋艦)因に言へば鳥海は血染の父か
- 最上(一等巡洋艦)何の擬か最上の望に飲み呆け
- 三隈(一等巡洋艦)三隈なる虬水無月みんみん蝉
- 鈴谷(一等巡洋艦)鈴谷細りて睡魔を宿す素手素足
- 熊野(一等巡洋艦)熊野なるかな樟の木九九を唱へてやまず
- 利根(一等巡洋艦)野川ひとつ利根に遂げゆくふるさとよ
- 筑摩(一等巡洋艦)筑摩に集ふ竹馬の友も知命かな
- 大和(戦艦)まして大和は真昼も闇と野史に言ふ
- 武蔵(戦艦)無二の武蔵の無念無念の蝙蝠よ
- 信濃(戦艦)信濃晴れたり加之四月馬鹿
- 高千穂(新戦艦)海彦も畳を泳ぐ嗚乎高千穂
- 富士(空中軍艦)雪しげき言葉の富士も晩年なり
- 不易なるかな絶えて富士なき富士見坂
- いまわれは遊ぶにて逆さ富士
- 赤富士や不二も不一も殴り書き
- 富士と高千穂
あとがき