夏至祭り 阿部泉

 2001年6月、TaKaRa酒生活文化研究所から刊行された阿部泉(1950~)のエッセイ集。装画はM.K.チュルリョーニス「夏、トリプティックⅡ」、装幀は南伸坊、デザインは橋本金夢。酒文ライブラリー。ダイナーズクラブ会報誌『シグネチャー』連載の「ボヘミアンの季節」から26篇を収録。

 

 毎月送られてくるその雑誌を、私はいつのまにか心待ちにするようになっていた。
 そして雑誌が届くとすぐに目次を開いて作者の名前があることをたしかめ、まっさきにそのページを繰った。最初は急いで全体を読み、それから、もういちどゆっくりと文章のひとつひとつを追う。もう十年以上も前から送ってもらっている雑誌なのだが、いつからそんなふうになったのか、はっきりした記憶がない。「ボヘミアンの季節」と題されたその連載には回数が記されていなかったから、数字から具体的な年月をたどることが難しかったせいもあるが、それ以上に、いったんはなにげなく読み過ごしても、忘れた頃に不意をつくかたちでよみがえってくる、心の奥の傷跡にからみついてくるような文章がそうさせたのだと思う。気づかぬうちに私の中に静かに沈殿した言葉の断片は、しだいに胸の底に動かしがたい重さを残すようになっていった。
(「序文/玉村豊男」より)

 

 昨年の秋のことだ。
 一度もお会いしたことのない人から手紙が届いた。「私なら、こんな本にします」とあって、百二十篇ほどの「ボヘミアンの季節」から二十六篇を選び、目次まで記してあった。玉村豊男という人からの手紙だった。エッセイスト。絵描きにして農園主。私にとっては、まず『パリ旅の雑学ノート』の著者。
 いただいた手紙は、鞄の奥に入れていつも持ち歩いた。手紙がお守りのように思われ、日々の暮らしの励みとなった。ときどき広げて読み返した。こうして、一冊の本に纏ることになった。
 本書に収録した作品のうち、もっとも古いのは一九九二年四月号に掲載された「裏通りのパリ」であり、もっとも新しいのは二○○○年八月号に発表した「雨の匂い」である。
(「あとがき」より)

 


目次

序文 玉村豊男3

Ⅰ 美しい夏

  • 美しい夏
  • 雲流れる街
  • 時間の外
  • 夏の読書
  • 去年の夏

Ⅱ 夏至祭り

  • 裏通りのパリ
  • ジャズクラブの夜
  • In Lovely Blueness
  • 夏至祭り
  • シエナの焼けた土
  • 木槿の花の夏

Ⅲ ガラスの魚

  • ガラスの魚
  • 友だちのいた街
  • 冬の初めに 
  • 夜の音楽会

Ⅳ 雨の匂い

  • 雨の匂い
  • 守衛
  • 鋼のような心の匂い
  • チェックアウトまで
  • 速い川の流れ
  • 朝を待つ

Ⅴ 島に渡った日

  • 島に渡った日
  • 豆腐屋の声
  • 賜物
  • 二月の日曜日 
  • 外国切手

あとがき


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