1975年6月、現幻社から刊行された冨倉まり繪子の詩集。装幀は西出大三。
未熟でもすがるものが残っていた二十代とは意味が違うのですが、再び「作品集」をという思いにかられました。
「このなかには私がいる。」
あきもせずにこんな稚拙な詩を書いてきたものだと恥じる一方で、私の人生に鞭の役も何度かひきうけてくれた詩の力を思わずにはいられません。
身辺を吹きぬける風の冷たさにおののきながらも、日常性への埋没と適応だけにうつし身をかけずになにかの形で生命(いのち)を完うのものにむけて燃やすこと。
ともすれば日常のしがらみの中で、遜大になり見失ってはならないものをきり捨てて、なしくずしに日を送っているのですが……。
饒舌な時間帯の中でしか心の羽ばたきを発見することができないのが今の現実だとしても……。
やっぱり詩は生命(いのち)の源泉から湧き出る水のように澄みとおったもの、人間の生命と同質のものであってほしいななど……。
いくつになっても小さな密室に住みついた野望を捨てることができないばっかりに詩と無縁の人生は歩けないのでしよう。
(「後記」より)
目次
Ⅰ
- 果実
- 青い実のうた
- 風の在る食卓
- 鏡
- 栗の花
- 花にある声
- 火花
- 報告
- 秋――生きている字
- 月光
Ⅱ
- 拒む
- ヴィーナスとともに
- 花の種子
- オホーツク海を見る
- 遠くなる知床に
- 喪の季節
- あと一週間
- 告白
- 生きていることば
- 自失
- 忙しい日本人
- 広告天国
- フェスティバル礼讃
- モナリザ昇天
- 残っている秋
- 師走の街
- 最後の嵐
- 越年
Ⅲ
- 元 誕生
- 元のノートから
- 花が盲いているように
- 子供の見える風景
Ⅳ
- 変心Ⅰ
- 変心Ⅱ
- 踏切
- 人に
- 訣別
- 鎮魂歌
- 別れのあとで
- 独白
- 変相
- 波の中の無言の歌
後記