2022年5月、コールサック社から刊行された八重洋一郎の詩集。装幀は松本菜央。
沖縄の施政権が米国から日本国へ移ってから五十年が経った。ということは私の第一詩集から五十年経ったということでもある。この五十年の間、日本国と琉球国という具体的対象を通して、歴史への疑問が消えさることはなかった。沖縄を廻(めぐ)る状況はますます複雑化し、これを少しでも解決の方向へ進めることもいよいよ困難となっている。しかしながら、あくまでその困難を見据え、これを打ち破らなければならない。私自身は思想と詩作にその道を探ってきた。それが何らかの足掛かりになり得るかどうかは解らないが、様々なことを試行錯誤してきた。
この二十数年は、歴史の最底辺とも言える郷里・石垣島へ帰郷し、その辺境の空気の中で、できるだけ根源的(ラディカル)に生きようと志してきた。
一方連れ合いの竹原恭子は東京に残り、ひき続きこの家庭の収入、家政、教育、その他を全面的に担い、更に私の詩の第一読者として率直な感想を述べ、厳しく批評してくれた。我々は言わば、共同戦線を張って生きて来たのである。息たえだえの五十年であったが、斬(き)れば血が噴出する充実感があった。
今回の詩集は、これまでの思索、詩作を歴史全般へ広げての試みである。
この度の出版もコールサック社のお世話になり、かねて念願の三部作『日毒』『血債の言葉は何度でも甦(よみがえ)る』『転変・全方位クライシス』を完結、感慨深いものがある。鈴木比佐雄コールサック社代表には、危機意識への強い共感と重厚な行き届いた「解説」をたまわった。あらためて心からの感謝と御礼を申し上げます。
(「あとがき」より)
目次
- 叫び
- 醜悪の中で
- ある偏頭痛(へんとうつう)から
- 歴史の授業
- めでたい節(ぶし)
- 始まるあいつ
- カフカの手紙
- 見る人
- 剩余系
- クロイツフェルト・ヤコブ氏(一八八五―一九六四)
- 逃亡者
- 発問
- 白色光
- 美しい街(まち)だった荒野を歩きながら
- 危機(クライシス)
解説 鈴木比佐雄
あとがき
著者略歴