1993年8月、視点社から刊行された伊藤啓子(1956~)の第1詩集。装画は斎藤範雄、装幀は滝川一雄。著者は鶴岡市生まれ、刊行時の住所は山形市荒楯町。
まだ言葉を持たない漫然とした思念が、頭の中でアメーバのように分離したりくっついたりしながら詩の形をつくり始めるとき、いつも怖くなります。いつの間にかその作業が逆転し、私よりも詩の中の「私」がどんどん膨れ上がってしまうのです。詩に一人称を使いすぎるのは野暮ったい、と思いながらフィクションにも「私」を登場させてしまうのは、見知らぬ「私」が詩の中から手招きしているような気がして、怖い反面、出会ってみたい気がするからです。
詩を書いてみないかとひとに勧められたのははたちの時です。以来、ずっと詩の世界は意識していましたが、実際、書き始めたのは十年以上もたってからでした。この"怖さ"を予感してなかなか書き出せなかったのかな、と今にして思います。
視点社の上村としこさんから出版のお話があった時は、こんなに早く詩集を出すことなど考えられなくて、すぐにお返事ができませんでした。書き下ろしの数編を揃えるに当たり、期限などは気にしなくていいからというお言葉に甘えてしまい、初めてお電話をいただいてから半年以上も過ぎてしまいました。幼い作品ばかりです。それでも、一冊にまとめることで、少しは"怖さ”の正体が見えてくるのかもしれません。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 数滴の重み
- 不眠
- せばならぬ
- 小さな復讐
Ⅱ
- 猫の記憶
- 微熱のころ
- 皮膚の感情
- 危険な場所
Ⅲ
- 節分
- 避暑地の男(ひと)たち
- TOKYO
Ⅳ
あとがき