2022年8月、開成出版から刊行された羽生槙子(1930~)の詩集。奉仕写真は羽生淳子、装幀は浅野健一。
わたしの生涯で一番懐かしい所、愛媛県拝志(はいし)(母方の祖父母の家があった土地。父が病気で亡くなって、わたしたち母子四人が祖父母を頼って住んだ土地の名)。
夏は夏中。子どものあいだじゅう。お天気さえよければ、昼ごはんを食べるとそれから夕方まで。近所のアイ子さんやマツミさんたちと連れ立って、水着を持って、浜へ行って、夕方まで遊んだ。なんて楽しい場所だったことだろう。泳ぎきると、たまには松原の松の木に登って遊んだ。どっちにしても午後いっぱい毎日遊んだ。帰りはもう、疲れて、どうかすると、うちへ帰って水着を洗うのがいやになって、帰り道の道ばたの小川で、みんなで水着をじゃぶじゃぶゆすいで帰ったりしたこともあった。
梅雨が終わると、夏が来る。泳げる夏が来る。そう思う時の胸のときめき。梅雨が明ける空の色をみるだけで、胸が幸福感でいっぱいになる。母に梅雨が明けるのを教えてあげよう。ツバメが脇をすしいとすり抜ける。毎年夏は来た。
(「あとがき」より)
目次
- 花と海
- 読む 夢 テキストを朗読する
- 海の朝
- わたしたち水着の包みをぶら下げて
- 白い翼
- 熱い小石を耳に当てる
- 海はもとの色にもどって
- 入道雲は小さく吊り下げられたまま
- ひく海は長い青い裳すそをひく
- 砂の色の明るい夏
- 海は新たな藍色になる
- 夏の海
- 大潮
- 海は陰気な色に変わり
- 浜辺の砂には黒雲母がまじり
- 朽ちかけた舟は置かれたまま
- 砂をにぎっては てのひらからこぼし
- 夜光虫
- 夏の夜の砂浜にねころんで
- 海の見える家
- キシャゴを母はゆでてくれる
- キシャゴは出てこない話
- 波の音
- 兄はやみ夜にレスケを釣りに行く
- イカナゴ漁
- 海の声
- 人さらいは麦のうねのあいだにひそんで
- 酒
- カニ
あとがき