1997年3月、砂子屋書房から刊行された築地正子(1920~2006)の第4歌集。装本は倉本修。第三十四回熊本県文化懇話会文芸賞受賞作品。
第四歌集「みどりなりけり」をまとめることとなった。前歌集「鷺の書」以後の、平成年代に入ってからの作品から自撰した。
折角地方のまた地方の田園に生活するやうになったのだから、のんびり、ゆつく生きてゆかうと思つたが、つくづくと、上手に老いてゆくことの難しさを痛感する日日になった。それはまた、短歌と表裏なす日日でもある。今思ふことは、「短歌」でなければ表現出来ないことを歌つて来たかといふことである。常に、「詩歌とは何か」「われとは誰か」といふ原点で作歌してゆきたいと願つてゐる。
そんな私を即かず離れず見守ってくれてゐる四囲の植物たち、動物たち。それらを更に包みこむ地球の、宇宙の大きさ。そのやさしさ、厳しさは、わたくしの親しい朋友であると同時に、競争者であり、敵でもあったが、共存者として、慰藉を与へてくれたし、また詩歌のみなもとでもあった。「みどりなりけり」は、そんな心を濃縮して書名にした。
来るべき平成十年は、「心の花」が、創刊百年を迎へるといふ。この由緒ある結社の会員として五十年余り、師から、先輩から、また若い人人から、多くのことをある。教へていただいた幸せに感謝しつつ、細く永く作歌を続けられた感慨は深いものがある。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 春昏れて
- ほの明りせよ
- 荒野だより
- 兄ありき
- ほろほろと
- 森の時間
- すべからく
- 昭和史を閉づ
- 閑雲野鶴
- 水稻民族
- さりながら
- 詩の種子
Ⅱ
Ⅲ
- あかのまま
- 鶯笛
- 微笑
- 草書的に
- ひとり旅
- 秋海棠日記
- 路
- をさめの花火
Ⅳ
- 昭和の尾
- 白萩の家
- 冬眠
- 百步
- 月よ答へよ
- 緑の器
Ⅴ
- 道草
- 女人紅梅
- みどりなりけり