1988年2月、黄土社から刊行された菊池正(1916~)の詩集。
私の詩は、いわば風花のようなものである。暗い空の何処からかの屋根に、路地の奥に音もなく埃のように舞い下りてきて、また風と共にあてどなく消え去っていく、あの白く細かく、淡々しい初冬の景物に似ているといえる。あえて書名に冠した所以である。
「陋巷詩篇」は、最も古い昭和十六年のものから以後現在までの、どの詩集にも未収録であった作品ばかりで編んだ。配列はおおむね制作年順に従い、特に考慮は加えないこととした。
「少年詩篇」には少年少女のための詩を集めた。私の児童文学作品は、「北国の子供たち」「コタンの子供たち」という二部作ものの童話集その他、少年詩集としては「口笛と草笛」に続いて「あざらしと少年」(昭和十八年・興亜文化協会出版部)を出して以来のことになるから、むろん戦後のものとしてはこれだけがすべてである。これからはこうしたものにも、つとめて心を向けたいと思っている。
「蜃気楼」について言えば、これは叙事詩というよりむしろ詩的散文とでも呼ぶべきであろうか。この一篇は、われわれがせめてものように抱く憧れや願い、あるいは夢といったものの、そのはかなさ、もろさに感応する三つの詩的モチーフを、三話の創作形式をかりて表現してみようと試みたものであって、私の気持としては、詩のカテゴリーに入れて差し支えないものと考えているのである。
なお、編集も浄書もすべて相良孝君を煩わした。半身不随意の病褥にある私は、一切を同君にゆだねて目をとおすことさえかなわなかった。あらためてその労に対しふかい感謝を捧げたい。
この集を編み終えて、つくづく己の拙い生きざまを想い返さずにはいられなかった。そうし私と生涯の大半を伴に過ごしてくれた妻に、いささかの含差を覚えつつこれを贈りたいと思っている。
(「あとがき」より)
目次
- ・陋巻詩篇
- あざみの花
- 雲
- 夕靄
- 新雪
- ほのかなるものに
- 雪の夜の歌
- 幼い日のように
- 南緣異情
- 万物節
- 巣
- 青空商売
- 転住
- 李の咲く村
- 山ぐらし
- 子供たちのいない日暮れ
- 灯
- 桜の木の下で
- 少女
- 冬の日
- 贋アカシヤ
- 菊日和
- 盲魚
- 風よりも早く
- 冬至
- 哀歌 その一
- 哀歌 その二
- 窓の中
- 物語
- 旅上
- 乾葡萄
- 昔の本
- 広場
- 旦暮
- 小田急線登戸駅
- 絵本
- 哀憐歌
- 壁掛けの聖母
- 木枯らしの街
- 赤い月
- 習性
- 雨
- 高く抱き上げ
- 葦
- 恢復期
- 顔
- 人に
- 日時計
- 駅遍
- 駅
- 杏花暮色
- 未成年
- 秋土用
- 桐の花
- 歌
- 寒鴉記
- ・少年詩篇
- 海を見にいく
- 走れ、ピコ
- シルバーシート
- プラットホームで
- 童話抄
- ・叙事詩篇
- 蜃気楼
あとがき