さるびあ街 松田さえこ歌集

 1957年8月、琅玕洞から刊行された松田さえこ(=尾崎左永子)の(1927~)歌集。第4回日本歌人クラブ推薦歌集。著者は東京生まれ。

 

 私が東京を引きあげて、妻子とともに郷里に疎開してゐた頃、松田さんは人を介して私に作歌のことを相談するやうになつた。それから終戦になつて、蒲田の新宿町に仮寓してゐるところに、松田さんはお母さんに伴はれてはじめて私を訪ねたのであつた。さうすれば松田さんの作歌歴ももう相当に古く、十年以上といふことになる。この数年来、松田さんは歌壇の新進としてみとめられるやうになり、松田さん自身も熱情をこめて作歌に励んで居られるが、その成果をまとめて世に問ふことになつたのは、私にとつても喜ばしい。
 かつての女学生が女子大学生になり、それから社会に出て、やがて結婚生活に入つたのであるが、その間松田さんは不断に作歌を継続したのではなく、作歌を休んだ期間があつた。それは松田さんが聰明で、何をやつても一応こなすだけの才能に恵まれてゐるためであつただらう。併し松田さんは、結婚生活に入つてからいよいよ真剣に作歌をされるやうになつたので、結婚生活は必ずしも幸福ではなかつたかも知れぬが、その代償のやうな歌をいくつか作られた。
 齋藤茂吉先生に『短歌とは寂しき道か年老いていよよますますわが歌さびし』といふ作があるが、ここでも「寂しき道」といふ感慨を禁じ得ない。併しかふいふ諦観は年長けて到るべきものであらうから、松田さんはまだ短歌を「寂しき道」として感じないかも知れない。
 私は常に松田さんの歌に目を通し、この歌集を編むについてもあらためて一読し、若干の取捨をしたのであつたが、それを松田さんは更に思ひきつて削つて編集したさうである。この歌集の歌は、私の賛成した歌であるが、今後松田さんの恵まれた才能は、どのやうに発展してゆくだろうか。「さるびあ街」といふ書名に見られるやうな才気が、底の方にしづむのがよいか、よくないか、それは私にもよくわからないが、兎も角も新進としての実質を盛つたこの新歌集の門出を祝福する。
(「序/佐藤佐太郎」より)

 

目次


序 佐藤佐太郎

・葉脈<一九五〇―一九五三>

  • 風ある朝
  • 長者ヶ崎
  • 没日の坂
  • 遠き岬

・黄の蕊<一九五四>

  • 雪原
  • するどき葉
  • 夕光
  • 北窓の霧
  • 水郷

・白き牙<一九五五>

  • 白き牙
  • 枇杷の実
  • 冬の苺
  • 夕雲
  • 秋より冬

・さるびあ街<一九五六>

  • 黄色の鞄
  • 別れ
  • 茎長き花
  • 風紋
  • 海光る
  • サルビア
  • 危懽
  • 霧しづむ街

後記


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