
1981年2月、黄土社から刊行された館林早苗の第2詩集。装画は著者、装幀は堀口太平。刊行時の著者の住所は横浜市戸塚区。
第一詩集「弧」は、娘に、体の弱かった私が、自分の実在の片鱗を残しておきたいとの願いから、四十六年に出版した。その頃は、三年ほど後に命長らえていたら、第二詩集を編もうと考えていたが、いつの間にか十年という歳月を過してしまった。
その間に義母も夫も世を去り、私は五匹の犬と植物を相手に一人で暮すようになった。昨年、友人に誘われて、数年来蔵いこんでおいた絵具箱を取り出した。もともと好きなことではあるし、ときには窓が白む頃まで筆を動かし続けた。ところがこの夏、突然疲労から眼に黒い幕が降りてしまった。恢復もはかばかしくない。
第二詩集を出すことは出来ないのではないかと思っていたが、次第に自分の証しを形にしておきたいと希うようになり、この十年の間に書き溜めた中から二十八篇を選び「室内風景」と題して出版することに踏み切った。亡夫を主体にした詩に、なるべく最近の身辺詩を採録するようにした。
私の詩作は長い年月にわたる。故岡田刀水士先生に子供の頃、厳しい御指導を頂いたときからである。発表することなど思い到らないままに書き続けてきたが、十一年前、はからずも木村嘉長先生にお目にかかり、お話を伺って以来、本気で打ち込むようになった。
長い間に私の部屋に積まれたさまざまな出来ごと、そして情景、私はそれを一つ一つ手にとって考える。心に響くひととき、暗い思い出、過ぎ去ってしまった愉しいこと。そのとき、そのときに凝縮された感情も、「時」によって引きのばされてゆくと、辛く、苦しく、悲しい思いの中に、救いとなる何かが、美しいものさえ、また、愉しく、喜ばしい思いにも、ときとして哀愁などが滲み込んでくる。どんなことでも、主観はやがて客観性を持ち、そして風景となって、対峙し得(え)、或いは静かに眺められるようになってくる。第二詩集は、そうした私自身の風景を描いたものである。
木村嘉長先生のおことばは分に過ぎているが、長年書いてきたものへの温かい贈り物として、ありがたく受けさせて頂いた。いつも、限りなく感謝申し上げている。
この詩集の装幀は、詩人の堀口太平様におまかせした。堀口様のおすすめで、私が育てた花花のスケッチを入れることになった。拙いペン画であるが、それぞれの色を美しくご想像頂きたいと願っている。末筆になってしまったが、いろいろとお骨折り下さった堀口様に深い感謝をもって厚く御礼申し上げる。
(「あとがき」より)
目次
- 女
- 風のある日
- 室内風景
- 明け方の月見草
- 吹雪と花束
- 今日と昨日の間
- 桜に雨が降るとき
- 眠る
- 喜遊曲
- 一粒の水玉
- 明日は
- その日は
- 藜
- 紙の橋
- 青いアイリスの花
- 犬
- ケンダルの「時」
- 朴の花
- その花花が咲くころ
- 痛み
- 幻の雨の日
- 雪夜
- 夕空
- 二月
- 形見の靴
- 室内風景Ⅱ
- 園芸店の主の話
- 或る日
- 青い夜
- 花と語り犬と語る館林早苗さん 木村嘉長
あとがき