
1975年4月、マリア書房から刊行された矢野文夫の詩集成。著者は小田原市生まれ。
「茫」より「土砂降り」に至る緒篇は、比較的新しい作品で、敗戦後の作と戦中の作と混合している。「暗い道」「白の頽癡」は、もっと古い時代の作品で、既刊の詩集には収録されていない。
「伊吹」「硫黄」「阿片の夜」は既刊の詩集の中から抜萃した。「伊吹」だけは三千部位発行したが、戦争中のこととて、焼け失せたものが多いだろう。「硫黄」と「阿片の夜」は三百部ぐらいの部数であるし、殆ど人目に触れていないと云ってもいい。初期の私の作品を知っていただく意味で収録した。
結局だらだらと牛の涎のように、また雨だれのように断続的に数十年間詩を作って来たわけである。 詩を作り絵を描く、のらくらと酒と女の中に生きて来た。いいも悪いもない。蝸牛やなめくじの白いあしあとのように、また路傍のごろた石のように「私」の存在の軌跡である。
戦後は絵が主力となり、松坂屋、阪急、三越、松屋、大丸の各百貨店をはじめ東京、大阪、京都、三重、岐阜等で二十回以上個展をひらいた。
絵の場合は矢野茫土の名であるが、詩の場合は矢野文夫である。全くの別人だと思っている人も、かなりいるらしい。
この詩集は予告してからすでに十年近く経過している。やっと発行までこぎつけたところである。
この貧しい詩集のために、すばらしい素描を贈って下さった小野竹喬、岡鹿之助、鳥海青児、杉山寧、東山魁夷、高山辰雄、織田広喜、猪原大華、下保昭の諸氏、また表紙のリトを描いて下さった辻晋堂氏に厚く御礼申しあげる。
私の無二の親友であった長谷川利行は、私の肖像を何十枚と描いている。油絵では一九三〇年協会出品の「詩人の肖像」をはじめ二十号三十号の作品も二、三枚ある。水彩や素描は二、三十枚あると思うが、この詩集には、その中から四、五枚えらんだ。二十代、三十代の肖像が殆どである。利行が早く死んだおかげで、私の老醜の姿を後世に遺さずにすんだわけである。
(「後記」より)
目次
・茫
- 茫
- 牛
- 牛
- 馬
- 白い道
- 色
- 松並木
・冬の柳
・黒い雪
- 黒い雪
- 黒い比叡
- 橋立の雪
- 伊吹
- 空
- 月
- 夏の日
- 二月の雨
- 男
・蛇の舌
- 赤い花
- 去年の雪
- 雪
- 日記のやうな情事
- 侮辱された月
- 蛇の舌
- 黒き瞳
- 初冬
・夏菊
- よろぎの磯
- 夏菊
- 流火
- 秋
- 街は美し
- 黒い窮乏
- 冬晴
- 白き蝶
- ・土砂降り
- 土砂降り
- ばらばら
・白の頽廃
- 干鰊
- 貧しい犬
- キリコ風の抒情 A俗な神秘
- 〃 B白い薊
- 白い頽廃
- 白いうまごやしの
- 氷花
- 娼婦――長谷川利行の油絵に題す
- 夏苑頽廃
- 夏苑夕映
- 白百合
- 酔ひどれた街――むかしの銀座
- 部屋
- 淫らな鴉
・暗い道
・「伊吹」抄
- 犬吠
- 指
- 微塵
- 白菊
- 千束町界隈――長谷川利行追憶
- 犬の吠ゆるが如く――長谷川利行を哭す
- 象(しよう)
- 狩野川
- 夕映
- 蜩
- 鴨川
- 返り花
- 志賀
- 漣(さざなみ)
- 志賀の山
- 淡海(あふみ)
- 浜大津
- わたむし
- 龍安寺石庭
- 八ヶ嶽
- 零雨それ濛たり
・「硫黄」抄
- 冬の旅
- 真冬の思ひ
- 昔の印画
- 格と雪
- 鬱金桜(うこんざくら)
- 大原海岸にて
- 鰯
- 荒地野菊
- 恥知らずの女
- 恥知らずの女――アンリ・ルッソオ風の構図
- 情婦殺し
- 後朝(きぬぎぬ)
- LUXURE
- 片意地な病人
- JAMS ENSOR――「冒瀆と幻怪」の画家
- CAUSERIE
・「阿片の夜」抄
- ありあけ
- 断章
- 緑の蛾
- 暗い印象
- 秋の木立
- 暗い雨
- 冬の小景
- 死せる恋人を憶ふ
- 晴れた十月の印象
- 夜道
- 新月のやうに
- みれん
- 庭園食堂にて――上野・精養軒にて