
1986年4月、私家版として刊行された柴田睦夫の詩集。刊行時の著者の住所は文京区小石川。
高校二年のとき初めて詩集を作った。金がなかったので印刷だけしてもらって、放課後の教室で友達に手伝ってもらって製本をした。どこへ消えてしまったのか、そのときの詩集は今ほとんど僕の手元に残っていない。神田の某書店で、置いて下さいといって持っていった数日後には処分されてしまっていたこともあった。
でも今ぼくは怨み言を書こうというつもりはないのだ。あれからもう十年近くがたとうとしている。あのときぼくの時を読んでくれた人の大部分は、今はもうどこにいるのかもわからない。懐かしい人々よ、再びどこかで出会うことができれば!
こんなに時がたったのに、ぼくは今でも同じことをしている。今ぼくは某高校にいて、やはり放課後の教室にいる。幸いなことには、ここにはワード・プロセッサーもあれば、印刷機もある。そしてせっせと紙を折りながら製本をしている。こんなやり方でも無名詩人にはおおきな喜びだ。
けれど時は変わった。ぼくはもう十代の少年ではないのだから、それは当然といえば当然のことだ。あれからいろんな人々に出会い別れた。いろんなことがあった。それをぼくは一つ一つ時にすることはできなかったが、それがぼくの詩を変えたのだ。
ここには、一九八〇年ごろから八六年始めにかけて書いた時のうち、未発表のもの十一編を収めた。振り返ってみればこの十年間に書いた時など何と微々たるものだったろう。詩人になろうと焦っていた少年にとって、それは何という遅々とした歩みだったことだろう。
しかし、とにかく今ぼくはここまで来たのだ。
(「あとがき」より)
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あとがき