1969年8月、大雅洞から刊行された高梨一男(1912~?)の第3詩集。版画は関野準一郎(1914~1988)、木版摺刷は小林宗吉、製本は矢島三朗、用紙抄造は山田広茂。序文は田中冬ニ(1894~1980)。
「春雪」と言うこの詩集の題名は、著者が選択に選択を重ねた結果のものである。この詩集を読まれる方のおおよそは、「春雪」と言う名がこの詩集に相応しいときっと思われるだろう。
春雪 春の雪 淡雪である。それも山国の信州や飛騨、或は北国の春の雪でもないもとよりアメリカナイズの殺風景な東京の春の雪ではない。古都、京の清水から祗園へ下るあたりか、木屋町先斗町のあたりの灯ともし頃、紅殻格子の家の前に、さくらの花片のように降る雪である。それは恰もこの著者の作品の雅やかなように。
詩を難しく論理的に見ることを私は好まない。おそらく著者もそうだろう。詩は学問ではない。ポエジー・イコール・エスプリヌーボーである。ところが今日は、徒に難解晦渋――消化不良自家中毒の詩が氾濫している。玄米パンのような詩。ライスカレーに生玉子をかけたような詩が多い。そうしたとき、詩集「春雪」ばさながら胸のすく爽やかな清涼飲料水である。
(「序文/田中冬二」より)
目次
序・田中冬二
雪解―序詞に代えて
I
- こども
- 犬
- 麦藁帽子
- 豆腐
- ピーマン
- 妻の座
- 野薊
- 古寺にて
- 仕切る
- 夜
- 短日
- 霞
- 顔見世
- 唯の石
- 無題
Ⅱ
Ⅲ
- みずうみ
- 矢
- 前菜
- 蛇
- 蜜蜂
- 薔薇
- 似而非もの
- 霜除けの庭
- シャボン玉
- 不易流行
あとがき