十一階の私の住みかの、台所の真っ正面先に、こんもりとした木立の一郭が見える。
夕刻、その木立に、鳥たちのひと騒ぎが起こって、それが毎日窓まで届く。それぞれ全員の、寝床の準備が整うまでの啼き声らしい。
ある日の深夜遅く、地震があった。すると、揺れのおさまった窓に聞こえてきた鳥たちの声。
びっしりの屋根も夜の暗さに紛れ、木立の一郭はさらに深く暗い。わたしは地震を恐れるけれど、あの、聞こえてきた鳥たちのざわめきには、救いある何かをもらった気がする。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
Ⅱ
- 風と草
- 点字
- 秋のライン
- テキサスから
- パンツいっちょ
- ドアの近くで
- 船便
- 中途の高さ
Ⅲ
- 白粉
- 落とし物
- ネガフィルム
- 画鋲
- 小さな挙手
- 代償
- 点滅
あとがき