1947年10月、東京出版から刊行された室生犀星の短編小説集。
近作のみを集録した。この時代は何を見ても、その現象は小説的であり深く衣食生活にもとを発せざるはない、そして個人的の悩みといふものも、日本といふものが初めて限を開かされた時代であるから、入念な洞察によつてここまで執れは來なければならなかつたものを、三百年くらゐ前から歴史的に眼を凝らす必要がある。明治以來の一大傾斜面が、やつと見えて來たといふことは甚だ迂潤な話であらう。
私の作品はかういふ問題には、正面から打つかつてゐない、打つかる必要もないのである。併乍、これらの作品はその一大傾斜面のすその方にあることだけ分ればいい、日本だけが運命の外でくらすことができると信じてゐた雲眛さは、それに先立つて考へたことのない人間にとつては、いまだにくされた眛味さが存在するのであらう、各篇は又そんな問題にはふれてゐない、併乍、作品の入れるところの深さはいかなる問題の複雑さをも、つねに併せて解きつつあることを人びとは同時に知るべきであらう。
(「後記」より)
目次
- ゆめは枯野を
- 山驛
- 近江路
- 作家
- 馬
- 白髪大夫
- 世界
後記