1948年7月、創藝社から刊行された久保島繁夫(1924~1947)の遺稿詩集。装幀は児島喜久雄。
これらの詩にはいろいろなものを取り入れようとして、重荷になつたのもある。巻頭十數篇のやうな素直な行方をした詩に却つて作者の將來の榮光がある筈だが、つひに榮光を見ないで作者は逝去した。私は作者を知らない、知つたのは作者が亡くなってからである。そしてこれらの詩にある交錯され、指導を拒んだ自由韻律は却つて作者の悌をつたへてゐるのではなからうか、作者の思い病気のあとも、これらに表現されてゐない筈はない、しかも、作者は病気しない前にこれらの詩を書きのこしてゐたのである。
見方に二つある。病氣前の彼と、病中の彼と、その二つの境にかゝれた詩とが、多くの批評のまとになる筈だ。私はいづれに據らずに讀んで、作者はかういふ詩から別れて、別の詩で一冊の處女詩集を編むべきであつたことを感じた。要するに作者は勉強中に亡くなつたのである。何より作者のために私は哀惜するのである。
(「序/室生犀星」より)
目次
序 室生犀星
- (わがこゝろ)(昭和十八年十一月)
- (もゆるがに)(昭和二十年七月)
- ゆめ(昭和十九年一月)
- (杉林に)(昭和二十年五月)
- (あさは冷え冷えと)(昭和十九年十月)
- (母人は)(昭和十九年十月)
- (まつてゐた秋が來て)(昭和二十年十月)
- 蛙(昭和二十年六月)
- かり殘されし(昭和二十年六月)
- (ともだちと步いてゆく)(昭和二十年十月)
- やさしい星(昭和二十年十月)
- 高杯(昭和二十年十一月)
- (おもたい鈍感のパトスを)(昭和二十年十一月)
- 焚火(昭和二十年十一月)
- (亡くなつた女の)(昭和二十年十一月)
- (けふもこの夕靄の)(昭和二十年十一月)
- (黃昏もふかくなつた)(昭和二十年十一月)
- 夜步昭和二十年十一月)
- (かぐはしい朝のをはりに)(昭和二十年十一月)
- 散策(昭和二十年十二月)
- まだらしか(昭和二十年十一月)
- よみがへりし時(昭和二十年十二月)
- (電車の窓に)(昭和二十年六月)
- (胸もとをゝな)(昭和二十一年一月)
- 憤怒(昭和二十一年一月)
- 殺人(昭和二十一年一月)
- (薄氷のから[カラ]と)(昭和二十一年一月)
- PhantasiaNo1.(昭和二十一年一月)
- PhantasiaNo2.(昭和二十一年一月)
- PhantasiaNo3.(昭和二十一年一月)
- 葡萄を盜む(昭和二十一年一月)
- 影の獵人(昭和二十一年一月)
- 傷心(昭和二十一年二月)
- 獸(昭和二十一年一月)
- 曇天(昭和二十一年二月)
- ひと夜(昭和二十一年一月)
- 淡い艸笛(昭和二十一年一月)
- (このまゝ焦げて)(昭和二十一年二月)
- (野の夜息知りそめし)(昭和二十一年二月)
- (あゝ死せる人は)(昭和二十一年二月)
- (つかのまの含羞の)(昭和二十一年二月)
- (うつけた放心の顏で)(昭和二十一年二月)
- (ひねもす曇天を)(昭和二十一年二月)
- 茅生え(昭和二十一年十月)
跋