これは、『ユリイカ』一九七四年一月号から翌年九月号まで連載された十九篇に、書き下ろしの表題作を加えたものである。当時、気分が妙に沈んでいて物がよく見えそうな錯覚にとらわれていたが、編集部・小野好恵氏の促しによって幻影を飽きずに書きつらねてしまった。口車に乗ってしまって白昼夢を見たような気がしないでもない。錯覚といえば、どうやらキーツのいわゆる「消極的能力」が具わっているかのごとく思い込んでいた気配が行間から浮かんできた。とにかく、こうして「生きる歓び」をわたしなりに書いたのだから、それをイロニーであるかどうかなどと詮索する必要はない。
(「あとがき」より)
目次
- 山茶花なのか姫椿なのか
- 枯れた薄野で物も言えずに
- 想像上の水族館――ラフォルグに倣いて
- 身を持ち崩す
- 声と眼なざし
- 叫ぶ禽獣の失墜
- 毀れやすい丘
- 円筒の窓が雨季にぬめる
- 濡れる
- 眼の窪みか胸の微笑みか
- まぼろし・遅延
- 変るものならば
- 何を求めて
- 頑なになってゆく
- 沼をたずねる
- すてきな、フェート・ギャラントもどき
- 夢みて醒めて、また
- 黄昏の隔世遺伝
- 知る言葉
- 生きる歓び
あとがき