2011年11月、書肆山田から刊行された岩﨑風子(1953~)の詩集。刊行時の著者の住所は神戸市垂水区。
わたしが小学生だった時、校舎の壁面に掲示されていたベトナム戦争の報道写真を見た衝撃は、まだ褪せることなく覚えている。
わたしたち人間は、あらゆる災難にさらされて生きているのだが、それ等を自分のコトバとしてあらわそうとするとき、自己内部の葛藤とともにどれだけの失語の果てから立ち直ることができるのだろう。
阪神・淡路大震災でもそうだったのだが、単にどうしようもなくかなしいという一語にたどり着き、亦そのかなしいという声につり合うには、どう向き合えば良いのか……。わたしの場合、あの直後、言葉はひどく空虚なものだった。
「其の生や浮かぶが如く、其の死や休(いこ)うが如し」と荘子は説くが、不安定なわたしたちの浮生は、近未来に至ってもかなしみは石を水に投げ広がる水の輪のようである。
ベトナム戦争が終わって三十六年、胸を痛めた小学生がずいぶんな大人になっても、今や世界中いたる所で起っている紛争が、治まる事など幻想にすぎない。しかし、わたしは時にあたらしい人に出会い、懐かしい響きに旅をし、そこにひっそりと咲く花に足を止(とど)める。そのことを文字を藉りて組立細工のように内側から補強しつつ、わたしなりの貧しい構築物をとっとっと眠れぬ夜に託している。
(「後記」より)
目次
- 日夕
- きさらぎ月影
- 森語り
- 気流
- 遠い火影
- まだ見ぬ海(かい)へ
- 届かない 岸辺に
- 印(ナンバー)
- Door
- せつない君のポケットに
- 胡桃
- 鷗シンドローム
- 六月の雨
- 砂少女
- 銀の穂波
- 漁人
- 初漁日
- 還月
- 風と鳩
- 予想屋
- 曳航
- 不在証明(アリバイ)
- 光るなき虫
後記