かなしき春 飯野農夫也詩集 

 1958年11月、二人社から刊行された飯野農夫(1913~2006)の第2詩集(第1詩集は『やぶれた花』)。著者は茨城県真壁郡五所村生まれの画家。

 

 ぼくは 出そうとおもいながらためらっていた詩集を やつと出す気になりました
 そこで自分に聞いてみるのですが一体ぼくは自分の詩を大事にしていただろうか 粗末にしていただろうか うかつのようですが はつきり答えられません
 もともとぼくは 詩には絵がめったに持てないうるおいがある――と読者としておもっています そう思いながら絵をやっています
 上野壮夫さんのところに 昭和七年と九年に居候をしていました しかし作ることに自信をもてなかったので 上野さんにも その他のかたがたにも教わりたい などとはゆめにもおもつて居りませんでした 絵の方でいつばいでした おぼつかない東京ぐらしが だめになつて 引込んだ田舎の家がだめになつて 親類と世間の風がつめたくなつて やりきれないよるひるの明け暮れに 仕方なくすがりついたせつない記憶は 昨日のようでも今日のようでもあります
 そのころ 伊藤信吉さんにめぐりあいました 伊藤さんが支えてくれなかつたら ぼくの詩のほとんどが 消えてしまったことでしょう
 いま詩集に出来るのは原蒼愁君のおかげです
 これまでにおせわになったこれからもおせわになるであろう多くのかたが
たに ささげたくおもいます

一九五八年八月八日
飯野農夫也

 


目次

  • うつくしいものは
  • 雨乞いを見る
  • かなしきはる
  • 馬洗場で
  • 真二顔
  • ねんねのねどこ
  • 子に
  • かなしきはる
  • 嵐の人
  • 西風
  • 日中
  • 冬の草
  • 前途
  • 少年の夏
  • 蘇芳の蕾
  • 風の日
  • さくら


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