1982年7月に思潮社から刊行された伊藤比呂美の第4詩集に、同著者の『感情線のびた』(弓立社、1984年7月)所収の<猫の体位>を併せて1冊としたもの。1988年8月発行。解説は鈴木志郎康。
東京の板橋あたりで生まれて育って、巣鴨、駒込、池袋くらいがいちばん馴じむ土地だった。祖母も伯母も母も叔母も、父も、そのへんで育って生活している。母たちはヒの発音がうまくできない。シになってしまう。わたしはいつもシロミである。わたし自身、母たちほどではないにしても、ある程度ヒが不明瞭になってしまう。この江戸弁のヒを音声学ではçとあらわすそうだ。大学でそれを教わって、わたしたちの美しいとは言えない言葉遣いがどこかで肯定されたような気がした。(「あとがき」より)
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