1950年8月、梧桐書院から刊行された蔵原伸二郎の中学・高校生向け詩人論集。装幀は恩地孝四郎。
明治初年に西洋風な詩の形が日本語に移しうえられてから、約六、七十年の月日が流れている。當時は新體詩と呼ばれていたが、それが現代詩(日本詩)となつて今日の盛大な結實を見るに至つたのは、幾多の先輩詩人がその一生をかけてきすき上げた苦心と努力のたまものであることを忘れてはならない。
本書はそれらの代表的詩人二十一氏の業績と日本の詩の歴史を、若い人々のためになるべく解りやすく書いたものであるが、詩人の歩いた道ということは、詩人たちがどのような内面生活をたどって、表現の上や詩の考え方にどんな新しい價値をつけ加えたか、父は何を發見していつたかということを突きとめることである。私がこの本で書いたのは詩人の世間的な生活ではなく「内部生活の歩み」であることを念頭にいれて讀んでいただきたいと思う。本書の特徴としては、
一、二十一詩人の最も美しい作品を三篇ずつあげ、それぞれ解説を加えて鑑賞の便をはかつたこと
一、それらの詩人たちが勉強した欧米の有名詩人の作品も出來るだけ多く採録したこと、詩人たちの生活を書くと共に、詩の歴史や發達のしかたも解りやすく書いたこと
一、むつかしい字句にはふりがなをつけ、くわしく註釋を加えてあること
一、若い人々のために書いた先輩詩人たちの言葉がたくさん引用してあること
一、この中に選んだ日本の詩る外國の詩も、非常に苦心して集めたから、とても立派な詩集になつていること
等である。島崎藤村は「藤村詩集」の序文の中で、ついに新しき詩歌の時は來りぬ
そは美しき曙のごとくなりきと書いているが、それは現代にもあてはまる言葉のように思われる。日本には再び「新しい詩歌の時代」が來た。その意味で私は、この本が日本の多くの若い人々に讀まれることを願つてやまない。
(「序言」より)
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序言