日本詩の古代から現代へ 網谷厚子

 2019年6月、国文社から刊行された網谷厚子(1954~)の評論集。カバー装画は高田有大。著者は富山県中新川郡生まれ。

 

 「日本語」で詩を書くとはどういうことなのか。「日本語」の特質を存分に発揮した〈洗練〉された表現はできないか。第一詩集を出してから、四十年以上も、私は追究し続けている。「日本語」が纏っている美しい〈佇まい〉、他の言語の翻訳では伝わらないであろう、独特な言い回し。古典文学を専門とする私は、「日本語」が、古代から連綿と現代に至るまで受け継いでいる〈味わい〉を、自分が書いている「詩」で生かせないかと格闘している。
 「短歌」「俳句」の短詩型文学で築き上げ、磨き上げられてきた〈表現〉。言葉が躍動し、あるいは突然の〈間〉による沈黙。翻弄され、誑かされ、時に泣かされる。文学は、何百年、千年以上もの時を超えて、私たちのもとにダイレクトに届けられる。これは、世界でも稀有の、日本文学の〈奇跡〉である。
 めまぐるしく科学・技術は進歩し、強固なAIと無防備な人間との、終わりのない〈戦い〉が、ボードゲーム以外でも現実世界ではすでに始まっている。そんな時代だからこそ、〈やわやわ〉と、深く長い時間を遡り、さらに未来へと歩を進めていく、健気な試みが必要ではないだろうか。じっくりと取り組むことでしか、見えない〈真実〉がある
 平成二〇年から一一年間沖縄に住んでいた。その土地に住まなければ、見えないもの、気づかないことが、なんと多いことか。沖縄への旅は終わる。
 しかし、「日本語」による〈表現〉の旅は、まだ始まったばかりかもしれない。私の命の火が消えるその日まで、しぶとく取り組んでいけたらと思う。
(「あとがき」より)

 

 

目次

  • 歌の始まり
  • なぜ人は〈うたう〉のか?
  • 〈ことだま〉は生きているか
  • 〈思い〉は届けられるか
  • 〈類型〉という器
  • 助詞〈は〉の躍動
  • 助詞〈を〉の働き――ただ中に飛び込む勢い
  • 時を巡る〈旅人〉
  • 跳梁跋扈する〈人称代名詞> ――田村隆一詩について
  • 〈貧しさ〉という修辞
  • 〈悲しみ〉はどこから?
  • 詩を書く〈情熱〉を燃やし続ける
  • 〈孤独〉という病――萩原朔太郎『月に吠える』について
  • 与謝蕪村の〈詩〉の占める位置

あとがき

 

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