森ミキエ
2009年7月、七月堂から刊行された森ミキエの詩集。カバーは内山和江。
私にとって四〇代は、厳しく辛いことが多かった。半径数十キロほどの円内を行きつ戻りつしていたように思う。その歩行の沿線に植物が芽吹き繁茂するように生まれたのがこれらの詩だ。気持ちを言葉で表わし、現実から少しでも離陸させようとすることで平常心を保ってきた。今も相変わらず不安や緊張のなかにいるけれど、辛苦を共にすることも、体の痛みも精神的な傷みも、生きているからこそ実感できる生命力だと思えるようになった。
繰り返し思い出す映像がある。幼い異国の女の子が歩いている。行く手に鉄路が続いている。立ち止まり抱えているマトリョーシカを一つその際に置く。願い事をするように。手元のマトリョーシカはだんだん小さくなっていく。女の子はまた歩きだす…この映像を、いつどこで見たのか思い出せない。私はほんとうに見たのだったろうか。夢か現かわからないが、脳裏にこびりついて離れない。
(「あとがき」より)
目次
- 午後の図書室
- 赤い鏡
- 薔薇の地形
- 布の話
- るすばん
- 英国式庭園
- 秋の音符
- 駐輪場で火の音を聞く
- 風船葛
- Intermission
- モクレン
- はばよせ
- 銀色の魚
- きらきらと光る
- 耳の中の風
- 潰れていた
- アルテミス
- 草原
- シャワー
- あした来る人
- マチコさんの靴
- ふきだし
あとがき