1990年9月、花神社から刊行された山本美代子(1932~)の第6詩集。装幀は熊谷博人。
これらの詩は、「遠野物語」という、不思議なORGANに共鳴するこわれかけた手風琴の、ひびきのようなものでもあろうか。遠野という言葉は、初めて出会ったとき、ひとつの音韻として私をひきつけた。日本語脈とは違う、何か異質なものを、含んでいる気がしたものだが、アイヌ語の、湖を意味するtoという音を含んでいるとのことで、なるほどと、思い当ったりした。
「遠野物語」は、始原に近いカオスを、内包していた。異界と地続きの、人々が歩きまわっている、壷中の天は、不思議ななつかしさを持っていて、私を魅了した。
この詩集が本になる頃、遠野の山や川を、訪れてみる予定である。それは多分、楽しみというよりは、何かがためされているような、不安で少しこわい、旅になることだろう。
(「あとがき」より)
目次
- 笛
- 声
- 器
- 樹
- 傀儡師
- 象塚
- 指
- 糸とんぼ
- 兎
- 道の神
- 女
- 湖
- 落下
- うす明かり
- 顔
- 少女たち
- 少年たち
- 海市
- 魚
- うばすて
- ほたる
- 狼
- 馬
- 花しずめ
花しずめーー方法としての「遠野」 安水稔和
あとがき