1975年7月、地球社から刊行された北森彩子の第3詩集。装幀は熊谷博人。第14回土井晩翠賞受賞作品。第26回H氏賞候補作品。
此の詩集には主に、第二詩集「城へ行く道」(一九七二年)以後の諸作品を収めた。I部の「旅びと」「瓶」「街角で」「広場」「六月の小鳥の歌」は河北新報紙上に載せた。その他の作品は、概ね同人誌に発表したものである。
私は、長い間詩を書きながら「現代詩とは何だろうか」と考え続けて来た。それに対して今日必ずしも明確な答えを得たとは思わないが、いつの間にか、それは、現代詩の範疇を越えて、もっと広く「詩とは何だろうか」という問いに変っていた。その問いは、普遍的な、また個人的な、さまざまの問題を含んでいるが、その中でもとくに伝統の問題が、年とともに身近なものになって来たことを感ずる。かつて伝統を、断ち切らねばならない鎖のように思ったこともあるが、今は、われわれに与えられた最も重要な鍵の一つであると考えるようになった。詩人にとって、詩は宿命であるとするなら、伝統とは、詩にとっての宿命であるように思われる。これから逃れることも、これと断絶することも共に不可能だ。問題は伝統といかに取り組んで今日の糧にするか、ということだろう。それは困難な道かもしれないが、もはや避けて通ることはできない。
第二詩集以後、これらの問いがいよく鮮明になって来た現在、その答えを求めて新しく出発するに当り、此の詩集を上梓することは、自分にとって些かの意味があると思っている。なお、集中の<「城へ行く道」以後の諸作品>(「村にて「五月」「運命「野梅」)によって、第十四回土井晩翠賞(一九七三年)を受けた。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 旅びと
- 石と石の間
- 凪
- 二月
- 町角で
- 広場
- 六月の小鳥の歌
- 村の駅で
- きょうだい
- 村にて
Ⅱ
- 五月
- 運命
- 野梅
- 道
- 友だち
- 龍
- たそがれ
- 夏の終り
- 九月
- 誕生日
- 冬の日
拾遺詩篇
- 春
- そのとき
- 九月の夜の歌
- 盗まれた街
- 淵の伝説
- 風景
あとがき