1994年11月、編集工房ノアから刊行された桃谷容子(1947~2002)の第2詩集。刊行時の著者の住所は奈良市学園北。
幼い頃から、<魂の空白感>のようなものに苦しんできた。それは幼年期の特異な環境と無縁ではないだろう。妻を病で失い、思春期から成年期に向かう五人の子を抱え、実業家であるというよりは、熱心なキリスト教伝道家だった父と、やはりキリスト教の婦人牧師をしていた母は結婚し、私は誕生(うま)れた。
私の幼年期から思春期にいたる期間は、二人の熱心な全国にわたる伝道活動の日々と交錯する。私は、子供にとっては暗い、森のような庭のある屋敷にとり残され、多数の他者に囲まれて暮らしてきた。その特異な孤独すぎる幼年体験が、いかにその後の人生に影響を与えるものであるか……。神のアイロニーについて長年私は考えてきた。
私は現在(いま)、我が子の幸福よりも、他者の魂の救いに、生涯をついやしてきた両親の生き方を肯定している。しかし、父の<幼児の如き信仰生活>とも、数ある受難を耐えぬいてきた母の<信仰による強靭な精神力>とも、遙か遠い所に立って、私は詩を書き続けている。
掉尾の詩、サラエボ――白い黙示録の冒頭のことば、<天のお父様>は、物心ついて始めて、婦人牧師をしていた母に教えられた、キリスト教徒の神への祈りの語りかけである。私はこれからも夜眠る前に、幼い頃母に教わったこのことばで祈り続けるだろう。いつか至福に至れる時が来ることを願いながら……。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 夕暮 子供と犬が
- 廃園Ⅰ
- 廃園Ⅱ
- 廃園Ⅲ
- 廃園Ⅳ
- 神託
- 調和の幻想Ⅰ
- 調和の幻想Ⅱ
- 調和の幻想Ⅲ
- 調和の幻想Ⅳ
- 競争
- 或る写真
Ⅱ
- 風花
- エリザベスという女
- 工場長コッホ
- 党第一書記ヤルゼルスキ
- コペルニクス通りで出合った少年
Ⅲ
- フィロパポスの丘
- 崖Ⅰ
- 崖Ⅱ
- カラマーゾフの樹
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