2000年9月、土曜美術出版販売から刊行された大塚欽一(1943~)の第7詩集。装幀は林立人。
私にとって切支丹の悲劇は長い間心に温めてきたテーマのひとつであった。歴史の中で一時大きな炎となって燃え、やがて歴史の闇に消えていった彼らの生き様はいまなお私の心をはげしく揺さぶってやまない。〈信ずるとは何なのか〉を、彼らは私たち現代人に問いかけているように思われてならない。私はひそかに思う、あれほどの迫害の下でなお信ずるとは狂気に他ならないのではないかと。
私は彼らの生き様にひとつの美学を見る。彼らの狂気はその凄まじい悲劇と相俟ってひとつの強烈な美を形作っていると思えてならないのである。それを叙事詩の形式に凝縮してみたいと思った。と同時に彼らの中に〈大いなる生きる哀しみ〉を見たのも確かである。それはひとり切支丹のみに限らない綿々と続く生あるものの宿命的なものであろう。私たちはそれがどのように見えようとも、与えられた現実の上でそれぞれに永遠のテーマである〈哀しみの踊り〉を踊る他ない。切支丹迫害の歴史にその典型を見る。切支丹の生き様はいまなお現代文明の只中を生きる私たちの心を震わせてやまない深いものを突きつけているように思われてならない。
詩集は全容を分かり易くするために三つの部分によって構成してみた。本文とエピグラフ(彼らの声)と注釈の三つである。また彼らを現在点に甦らせる意図から、ポリフォニックな声にしたり、文字の大きさを変えたり、括弧を作ったり、頭文字をずらしたりして共時的な効果を出す工夫をしてみた。もとより非才ゆえ彼らの悲劇をどれほど詩に移しえたかは覚束ないが、いま何とか一冊の詩集にまとめえたことに大きな安堵と喜びを噛みしめている。なお表題の〈蒼ざめた馬〉はヨハネの黙示録の〈青白い馬〉から転用した。また〈丸血留〉とは殉教を意味するポルトガル語であることをお断りしておきたい。(「後書」より)
目次
- 創生
- 麦の賦
- 幻化
- 春騒
- 耳
- 夢
- 朝焼けの賦
- 嵐の賦(一)
- 嵐の賦(二)
- 魂舞(一)
- 魂舞(二)
- 黙契
- 葦の賦
- 転生
- 落日
- 海吼
- 石の賦
- 布
- 比類なき
- 化生
- 黙示
蒼ざめた馬 丸血留の賦・注釈
後書