1940年12月、小山書店から刊行された室生犀星の短編小説集。
「いとど寺前」と「草山水」とは私の庭から續いてゐるやうなきれぎれに光る風俗情景であって「くちなは」を入れるとさらに一作家の日常生活のほどがわかる。
「緑色の日記」もそこにならんでゐる雑草のやうなものだし、「戰死」の物語もやはりそれらとともに幹や枝を交はしてゐる。「哀蝉行」はそれぞれの作品のいとまから鳴く蝉の類、こんどの作品は悉く甚吉の心の內外にとどめをさしてゐる。
ただ「荻吹く歌」は平安朝に材をとり入れたもので、これまた私の文學的な道草の一つでありこれを書いて哀れといふ文字の深さをつくづく知ったのである。
(「序」より)
目次
- 戰死
- 竈馬寺(いとどでら)前
- 草山水
- くちなは
- 哀蝉行
- 緑色の日記
- 續緑色の日記
- 荻吹く歌