1954年8月、第二書房から刊行された原爆歌集アンソロジー。編集は『廣島』編集委員会(代表は豊田清史)。写真はイサム・ノグチ「平和大橋」。撮影は稲村豊。
灰燼に生きて八年有半、未だ拭われずしてひしぐもの幾多の声がある。この真実なる<広島の声>を歌いとどめて、より平和の招来を呼ぶことは、われわれ短歌につながるものの大きな使命である。
玆に於て当委員会は、今回第二書房の出版企面のもと、広く一般より作品を公募し、鋭意これが歌集『広島』を世に問わんとする。
身をもって惨禍の中に生き、言われざる悲しみと憤りを詠みつづけられる人々よ!挙って応募されんことを切望してやまない。
――この公募趣意書を配布したのは、今春の一月初めであったが、意思した如く、反響1は直ちに作品となって、しびれるばかり次ぎっぎと集って来た。
一方、私ども十五名の委員は何回も会合を持ち、これが作品の選考、編集方針等について議し合った。結局、寄せられた六千五百首を、一度無記名で謄写プリントに附し、これにつき銘々が幾日か慎重選歌をした。如上にしてその集計四点9以上、二百二十名、一千七百五十三首を本集に収録するに至った。公募にあたって一人五十首以內と規定した結果、出詠歌数がまちまちで、斯様な事情も一作者の収録作品数の多寡に影響を及ぼしている。ただし、寄せられた作品への選考の眼は別として、そのビジネスに於ては公平と遺漏なきを期した積りである。
作品の実態について見るに、全体の比率の上で男が六〇%を占め、最高年令八十二歳、最低十八歳。職業は作者名に附記してあるが、無職、主婦、公務員、教員、工員、会社員、農業、その他の順となり各層にわたっている。とりわけこの中に死亡者のあること、無職の中には、直接あの日の原爆症に喘ぎ苦しんでいる多くの療養者があること、また数名の受刑者の出詠お見遁してはならない。
今日、この呪咀すべき原爆使用を、ただ悲惨なる人間の姿、乃至は現象面で把えて歌うだけでは済まされはしない。説明の許されないままにも、この短詩型に一個のエスプリをとめ、如何に人間としての抵抗を挑んでいるか、このことが大きな本集の意義となる。而して現歌壇の夥しい所謂「作られた歌」に対して「作らずには居れなかった歌」の姿勢をとっていること、結社などに因らない一般民衆によって本作品が支えられている等の事実は、現歌壇に対しても、一つの示唆と方向を促すものではあるまいか。
思えば、原爆歌集出版の念願は、ずっとお互の胸に懐きつづけられて来た。それでいて-いざとなると、諸事情のために見送りするの止むなきに至っていた。
今や、水原爆による人類滅亡のこえをすら聞く時、結集してここにヒロシマの悲しみと憎しみの一書を編み得たことは、私どもの尽きない織りを超えた決意でもある筈だ。
(「跋」より)
目次
序文 長田新
- 安達艷子
- 秋山節子
- 鮎川美代子
- 荒森琢三
- 伊藤春江
- 伊原明
- 石井貞子
- 石井千津子
- 石井政男
- 泉朝雄
- 板舛雪江
- 稲田元治
- 井上清幹
- 今井篤三郎
- 今岡忠輔
- 今本春江
- 上杉綾子
- 上野夕穂
- 潮規矩郎
- 内田英三
- 枝松きみ子
- 越智紋子
- 越智満
- 越智もん
- 小田富江
- 大井静雄
- 大久保藤敏
- 大沢張夫
- 尾形静子
- 岡田逸樹
- 岡田真
- 岡本信子
- 沖田吉惠
- 奧原保男
- 奧本キヨ子
- 故 折田邦子
- 加藤輝子
- 加納節尋
- 香川ヒサエ
- 片岡貞雄
- 桂清
- 課内時子
- 兜山年子
- 亀田富子
- 亀田鳳年
- 川手亮二
- 河内格
- 神田満壽
- 神田三龜男
- 木浦節子
- 木川勇
- 北村白靜
- 金原繁美
- 久保静代
- 国岡圭子
- 熊野喜久男
- 黒田秀美
- 桑田章治
- 桑原忠
- 小阪茂子
- 小堺吉光
- 小谷阿貴子
- 小谷郷治
- 小日向定次郎
- 小森正美
- 小山綾夫
- 河野淑子
- 河野富江
- 佐々木猪三夫
- 佐々木克巳
- 佐々木美枝
- 佐々木豊
- 佐藤房子
- 斎籐哲子
- 崎本繁一
- 清水惟明
- 清水信晃
- 品川楊村
- 島昭
- 島本鳴石
- 正田蓉子
- 正田篠枝
- 荘内伍
- 新迫重義
- 新出壽奈枝
- 末田清子
- 杉鮫太郎
- 杉はつよ
- 杉原美春
- 角谷良一
- 関本幸太郎
- 瀬戸原行信
- 田坂未子
- 田中幸市
- 田中つゆ子
- 田中春江
- 田迈重美
- 高須賀治
- 高野鼎
- 高橋晋
- 高橋武夫
- 竹內多一
- 竹下和孝
- 竹下萬壽夫
- 武田衛
- 谷口蔵素
- 煙石敏子
- 千伏妻平
- 津田定雄
- 寺西昭子
- 土居貞子
- 斗山藤子
- 斗桝良江
- 研谷サダ子
- 徳田多美子
- 徳永侑
- 豊田清史
- 名柄敏子
- 那須茂義
- 中沢愛子
- 中谷敏之
- 中川雅雄
- 中原仁市
- 中邑浄人
- 中村美佐
- 中本十一郎
- 西川若子
- 西奥とし江
- 西田郁人
- 西田剛
- 西原忠
- 西原三重子
- 西本昭人
- 西本千展
- 新田隆義
- 新田みどり
- 新見隆司
- 野村洋吉
- 農宗和子
- 長谷川精作
- 白島きよ
- 橋本くに恵
- 橋本桃村
- 花畑進
- 林野明
- 原時彦
- 原田節子
- 原田君枝
- 春名重信
- 檜垣千柿
- 彦坂重三
- 平井亮
- 平賀松枝
- 平野美貴子
- 広瀬勇
- 深川宗俊
- 深崎道子
- 福井緑風
- 福田和子
- 福田栄代
- 福原静男
- 藤井文子
- 藤岡貢
- 藤田勝三
- 藤田辰馬
- 文野勇
- 古川春子
- 堀江経子
- 間賀田道子
- 槇野弘吉
- 増岡敏和
- 増田敏雄
- 益田美佐子
- 益田礼助
- 松村松風
- 松村巧
- 丸山鶴松
- 満足栄
- 三浦春雄
- 三宅雪枝
- 三好喜八郎
- 三好謙二
- 道岡久仁子
- 宮田鋋男
- 宮田定
- 宮田千代子
- みやもと・まさよし
- 六十部かず緒
- 向井恵美子
- 村上弘
- 毛利美津子
- 本谷正輝
- 森チエ子
- 森下弘
- 森田利男
- 森田良正
- 森本秀明
- 森本ちよの
- 山口富美子
- 山口光男
- 山口勇子
- 故 山隅福代
- 山根春人
- 山本巌
- 山本紀代子
- 山本隆
- 山本英雄
- 山本雅子
- 山本康夫
- 横山冴子
- 横山靖
- 吉井清雄
- 吉田邦治
- 吉田幸夫
- 吉田良平
- 故 好富周満
- 米田淳雄
- 両徳玉穂
- 失名
跋