1992年5月、不識書院から刊行された桜井登世子(1930~)の第3歌集。装画はWoodblock Prints。第1回ながらみ現代短歌賞受賞作品。刊行時の著者の住所は杉並区阿佐谷北。
この歌集は『海をわたる雲』『冬芽抄』につづく私の第三歌集で、一九八七年から一九九一年までに発表した作品から自選し三六八首をおさめた。
この間に元号は、昭和から平成へと移ったが、昭和が終ろうとする時を同じくするように夫は突然に世を去った。
一九九〇年三月から四月にかけて近藤芳美と共に訪ねた「スペイン巡礼の旅」は、ひとつには鎮魂の意味らあってのことだったが、すべては「時」の癒しを待たなければならなかった。
間もなく満三年目の忌日がやってくる。『マルテの手記』に「――人は一生かかって、できれば七十年あるいは八十年かかってまず蜂のように意味をあつめねばならぬ。そうして、やっと最後におそらくわずかな十行の立派な詩が書けるだろう。詩は本当は経験なのだ」という一節があったと記憶するが、リルケの言う意味で私はやっと詩の入口に立ったばかりなのだ。苦しい歳月をお目守り下さった近藤芳美氏、とし子夫人、そして「未来」の先輩、友人たち、また、亡き夫をめぐる友人、知人たちにふかく感謝をいたし、過ぎた日々を思い返している。
なお、歌集の「街上」に挿入した「候鳥通過」の一節は、仙台生れの詩人石川善助のものであり、若いときに記しとめておいたノートから引用した。
また、作品の表記は、今回から歴史的かなづかいを用いることとした。この追悼集としての一書に普遍性をもつ作品が一首であれば幸いである。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ街上
- 寒の空
- 宵の月
- 花に積む雪
- 国出でて
- 夕ぐれは
- 春のはやち
- トローゼ通り
- 街上
- 病室の窓
- 秋霖
- 幾夜々を
- 夕雲は
- 碁笥ふたつ
- 朱雲
- 帰郷
Ⅱ十字路
- 泉ヶ岳
- 左辺の石
- きさらぎ
- 回転窓
- 旦日
- 花の下
- 季移る
- 瀬戸内
- 八月
- 冬の花火
- 欅街路
- 夏のこゑ
- 十字路
Ⅲ虹の脚
Ⅳ夏の落葉
- 北国の秋
- 机上
- 逢ふ日
- つごもり
- 一族
- 湾岸
- 江戸川
- ジプシーのとき
- 少年期
- いぐね木立
- 夏の落葉
- 吉祥寺
- 錦ヶ浦
- 地上
あとがき
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