1989年5月、近文社から刊行された根来真知子(1941~)の第5詩集。日本詩人叢書86。著者は中国天津市生まれ、刊行時の住所は京都市右京区。
なんで詩を書くんだろうと、答のでない問を自分に問いかけつつ、考えてみれば四半世紀を詩とかかわってきたことになる。なんて書きだせばいやに大そうだが、何、曼然と書いていたらいつのまにやら年を取ってしまったというだけのことなのである。少しは努力をしたらどうですかと、時折、見えない声に叱責されもしたが、こと文学に関して、何をどう勉強すればよいものやら、よくわからなかったし、又、詩に別才ありと言われるように、才能に関する分野には、努力や勉強は大して関係ないと思っていた事もある。
あまりうまくもない詩を書いて、もう少し何とかとじれったく思い、時には大いに失望して、もうやめゃ、ペンを折ろうと一大決心をし、しばらくして、ペンを折るなんて大げさに言う程のものを、あんさんは書いてはるんですかと自問し、そう考えれば、そうやなあ、別にどうってことないんやし……なんて妙な納得をして、又、原稿用紙をトントンとそろえたりして「ウーン」なんて天井をにらみ、何かまとめなければと思いつつ、思うように書けなくて、なんで詩を書くんだろう――つまり、ふり出しへもどるのである。
時間は音をたててすぎてゆく。人の一生なんて短かくはかないものなんだナと、思わないでもない。急がしいを口ぐせにして、日常を雑に過している。しかしすべてを忘却のかなたへ捨て去るにはしのびない。そんなことの二つ三つを、言葉にして原稿用紙の上に定着させている、そのあたりが案外正解なのかも知れない、私の詩に関しては。わかりやすくて、少し楽しくて、そうや私もそう思うワと共感の得られるものをと、そのことにはこだわってゆきたいと思っている。
それにしても、なんで詩を書いているんだろう、私ー。
(「あとがき」より)
目次
Ⅰ
- 女ともだち
- 手
- 夕立が好き
- 清姫もどき
- 二月猫
- 埋火
- 鐘の音
- とまり木
- まどろみ
- 歯がいたい
- 羽根つき
Ⅱ
- だまし絵
- ロサス海岸
- 「ゲルニカ」によせて
- ドングリ
- 幸福の木
- 剪定
- シャコバサボテン
- 畑
- 蜘蛛
- ムカデに
- 虫の息
- バイバイ ハレー
- 捜査願
あとがき