鉛島 鍵岡正謹詩集

 1993年7月、書肆山田から刊行された鍵岡正謹(1943~)の詩集。装画装幀は若林奮。

 

 十年前になるだろうか、若林奮さんから一冊の画帳を手渡された。
 カタログ見本帳を利用して、表裏の画面一杯に、水彩で描きだされたそれは、彫刻家若林奮の禁欲的で思索的な発表されたドローイングに基づいてはいるが、それらに比べてはるかに多彩で歓ばしい色彩を駆使して、鳥瞰する岬と海、あるいは半島と海ともいうべき有機的な形態が、あのセザンヌのサン・ヴィクトワール山の色彩と空間とでもいいたい画面が鮮やかに展開されていた。
 僕はこの画帳(タテ二十一センチ×ヨコ三十六センチ、四十ページ)を座右において、無聊の時間を楽しんだ。その嗜楽は僕に解放感を味わわせる、と同時に発語を強迫するように立ち現われた。僕はこの画帳の精神と肉体圏に連らなる何ものかを書くともなく書きだしていた。それが「岬」となった。若林奮さんに発送した。そのあと更に言葉の不足を感じ発語が連なり「半島」となり、再び若林奮さんに送った。一九八三年三月から五月にかけての出来事であった。
 以来詩稿は若林奮宅にあり、画帳は僕のもとにあった。
 十年後、若林奮さんがあの詩稿を形としないかといわれた。十年の時間は新しい発語を要求し、新たな詩稿となった。若林奮さんは僕の新しい詩稿をもとに新たにドローイングを制作された。一九九三年一月から三月にかけての仕事である。実に十年に及ぶウォーミング・アップとでもいえばいいのか。
 出版に至るまでに、寔にお世話になった詩人吉増剛造氏に御礼申し上げます。
(「あとがき」より)

 

 

目次

  • 半島
  • 鉛岬、鉛ノ岬

あとがき


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