1992年9月、青帖社から刊行された大崎二郎の第6詩集。装幀は久保晃。第11回現代詩人賞候補作品。
戦前、一度も行ったことがないのに
夜、沖縄の宿でめざめると闇の中にとおい琉球時代の記憶のようなものがよみがえる。漆喰で固めた赤瓦の低い家並、緑の木陰を吹きわたる風の匂い、湿った土。人びとはそこで寄り添うように暮らしていたのだった。
沖縄戦で、その暮らしも福木の生垣も破壊しつくされた。
あれから四十七年もたち、生き残った人もしだいに少くなり、記憶も風化しつつある。
だが、あの八十二日間に、わずか方十余キロの坩堝の中で死んでいった住民は九万四千人、日本軍の戦死より約三万人も多い。
この厳然たる事実は風化しない。
<アメリカ軍より日本軍が怖かった〉と住民がいう皇軍、つまり天皇の軍隊とはいったい何であったか?家郷にあれば善良な父や夫である彼らが、国家という幻影を背負った時、限りなく膨張して国家そのものとして動く。
いま又、その国家がすり足で動きはじめている気配を感じる。
書きはじめて六年たったが、沖縄の棘は私の喉に深く突き刺さったままだ、だから沖縄行きも詩もまだ終わらない。
取材にあたり、与那覇幹夫、晶子御夫妻に一方ならぬお世話になり、作品〈命日〉の方言訳について、あしみね・えいいち氏に御教示をいただいた。又、装幀は久保晃氏にお願いした。
記して厚く御礼申し上げます。
(「あとがき」より)
目次
(一)
- 風の島
(二)
- チビチリガマから
- 首里城趾にて
- 喜屋武半島・米須原(キヤンハントウ コメスバル)
- ゆうな記
- 一枚の写真
- 荒崎海岸
- ある死
- 雨
- 指
- ローソク
- トマト
- 命日
- 宮城遥拝
- コバテイシの木の下で
- 群隊
- 点景
- カミのハイ
- 縄
- 闇の中
- 風のゆくえ
- 水筒
- 黍野
- 夏至
- 一万六千五百日めの夜
(三)
あとがき
主な参考資料