2011年8月、ふらんす堂から刊行された平石和美による飯島晴子論。装幀は中島恵雄。
俳句を始めて間もない頃、飯島晴子の句集『儚々』に出会いました。次から次へと気になる句が現れます。また、全句集を読むと『儚々』とは違う不思議な感覚に捉われ、晴子の自句自解やエッセーを読むにつけ、俳句に生まれた風景をこの目にしたいと思うようになりました。平成十七年「俳句研究」に小川軽舟氏が「飯島晴子の句帳」を連載され、晴子の使った句帳の写真を見ました。一見落書きのような十七文字にはなっていない断片的なフレーズは、確かに見覚えのある句の一部です。
「飯島晴子の句帳」に触発されました。
伊勢を旅行中、大王崎の燈台でふと晴子の句を思い出したことがあります。句を鑑賞するために作句現場に立つのは必要のないことですが、折に触れて思い出す晴子の句の場所を、強く思うようになりました。すでに評論し尽されている飯島晴子を私なりの角度から取り組むための方法です。
全句集の中から気になる句を選び、晴子の自句自解やエッセー、年表を参考に場所を特定できるところを探し、なるべくその句に相応しい季節に訪れることを考えました。そして、私が訪ねた土地で見たものから新たに浮かび上がる句などもとり上げています。
もともと山登りが好きだったという晴子はずいぶんよく歩いています。連衆と共に行く熊野古道や吉野、郡上八幡。また毎月のように一人で出かける関東の山々をたどると、晴子が歴史や民俗学などに深く興味を持っていたことが理解できました。
晴子の俳句そのものに魅かれたので始めた旅です。しかし「飯島晴子の風景」を書いているうちに自然と、私自身の旅もすることになりました。それを「余録」として付け加えています。
(「はじめに」より)
目次
- はじめに
- アラブ服
- 臍峠
- 鏡王女
- 砂雪隠
- 含羞
- 筍
- 秩父
- 螢
- 生立ち
- 郡上八幡
- 凶年
- 山の辺の道
- 神等去出しぐれ
- 初夢
- 夜神楽
- 雪
- 金屏風
- 西国
- 筒鳥
- 女流
- 吉野
- 蛻
- 秋
- 写楽
- ところの名
- 競馬場
- マグダレーナ
- 滑稽
- 橋本
- 無意識
- 祭足袋
- 武田幟
- 絵金
- 七人みさき
- 秋の季語
- 光と影
飯島晴子 年譜
飯島晴子の風景を終えて